山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第3章 策謀
「全く、お嬢さまったら、物好きなんだから」
ナヨンは薄汚い子どもを押しつけられ、随分とお冠である。
少年の方は、まるで現世に降り立った天女を見送るかのようにボウとした顔で、凛花の去った方を見つめているだけだ。
「さあ、私についていらっしゃい。お風呂に入れてあげるわ」
元々心優しいナヨンは凛花への不満もすぐに忘れ、少年に穏やかな口調で言った。
「でもね、これだけは心しておきなさい。お嬢さまが幾ら親しく話をなさったからといって、お前がお嬢さまと結婚できるなんて思っては駄目よ」
この少年と凛花では、あまりに身分が違いすぎる。甘い夢を見させておくのは、かえってこの子が可哀想だった。
が、少年から返ってきたのは意外な反応であった。
「じゃあ、俺はお姉さんでも良いよ。お嬢さまほどじゃないけど、お姉さんも美人で優しそうだもの。お姉さん、俺の嫁になってくれる?」
「まっ、な、何を言うの? 子どもが生意気なことを言わないの」
「俺、もう直、十四になるんだぜ。母ちゃんがいつも言うんだ。女房は年上の方が夫婦仲が上手くゆくってね」
ナヨンはもう絶句して、言葉もない。
後に、凛花は父に頼み込んで、この少年が申家の屋敷で働けるようにしてやった。少年はここで読み書きも憶え、成長して有能な家僕になるが、それはまだかなり先の話だ。
更に、この小柄な少年がナヨンの良人となり、図らずもこのときの彼の言葉が現実になるとは、流石に、ナヨンも少年の方も想像だにしなかっただろう。仮に、少年の方は至極本気だったとしても、だ。
ナヨンは少年のことにばかり気を取られていて、凛花が見て顔色を変えた手紙のことなど、忘れて果ててしまっていた。
ナヨンは薄汚い子どもを押しつけられ、随分とお冠である。
少年の方は、まるで現世に降り立った天女を見送るかのようにボウとした顔で、凛花の去った方を見つめているだけだ。
「さあ、私についていらっしゃい。お風呂に入れてあげるわ」
元々心優しいナヨンは凛花への不満もすぐに忘れ、少年に穏やかな口調で言った。
「でもね、これだけは心しておきなさい。お嬢さまが幾ら親しく話をなさったからといって、お前がお嬢さまと結婚できるなんて思っては駄目よ」
この少年と凛花では、あまりに身分が違いすぎる。甘い夢を見させておくのは、かえってこの子が可哀想だった。
が、少年から返ってきたのは意外な反応であった。
「じゃあ、俺はお姉さんでも良いよ。お嬢さまほどじゃないけど、お姉さんも美人で優しそうだもの。お姉さん、俺の嫁になってくれる?」
「まっ、な、何を言うの? 子どもが生意気なことを言わないの」
「俺、もう直、十四になるんだぜ。母ちゃんがいつも言うんだ。女房は年上の方が夫婦仲が上手くゆくってね」
ナヨンはもう絶句して、言葉もない。
後に、凛花は父に頼み込んで、この少年が申家の屋敷で働けるようにしてやった。少年はここで読み書きも憶え、成長して有能な家僕になるが、それはまだかなり先の話だ。
更に、この小柄な少年がナヨンの良人となり、図らずもこのときの彼の言葉が現実になるとは、流石に、ナヨンも少年の方も想像だにしなかっただろう。仮に、少年の方は至極本気だったとしても、だ。
ナヨンは少年のことにばかり気を取られていて、凛花が見て顔色を変えた手紙のことなど、忘れて果ててしまっていた。