山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第4章 暗闇に散る花
蘭輝がゆっくりと荷に近づいてゆく。また清国語で何やら言うと、男の一人が蘭輝に近い木箱の蓋を開けた。蘭輝が手を入れて中から取り出したのは、珊瑚の豪奢な首飾りであった。彼はしばらく首飾りを様々な角度から検分するように眺め回していた。更に空いた方の手で掴み取ったのは、翡翠の簪だった。
彼が顎をしゃくると、他の男たちが次々と荷を解く。ざっと見積もって木箱は六個。蘭輝が開けさせたのはその中の二つで、一つからは眼にも鮮やかな絹布、三つめの箱からは見事な毛並みの虎の毛皮が出てきた。
まさに、一人の人間が一生、何もしなくても両班並みの暮らしを送れるだけの財宝だ。いや、一人でなく、一体何人がそんな暮らしを送れるのだろう?
今夜ひと晩で、この男はそれだけの財宝を国庫から盗み出した。更に何年も前から同様のことを繰り返していたのなら、どれほどの人が楽に過ごせるだけの財物を手に入れ、更にそれらを売り飛ばし、暴利を貪ったのだろう。
それだけの金があれば、飢えや疫病で苦しみ喘ぐ民を何十人、何百人と救えるのに。
民を救うべき国の財産を私有化して、私利私欲に耽る鬼畜にももとる恥知らずな奴らだ。
文龍の中で言い知れぬ怒りが沸々と煮えたぎる。怒りが文龍の理性をわずかに狂わせたことが、彼の判断を誤らせた。
文龍は走りながら、剣を抜いた。闇の中で凛花がくれた護身用の飾りが揺れる。虎目石が月の光を受けて光った。
「李蘭輝、貴様の悪事をしかと見届けた。観念して、大人しく縛に付け」
叫んだが、相手が大人しく捕まえられるとは最初から思ってはいない。
「義禁府の雑魚めが。格好をつけても、うぬは所詮、国王の忠犬であろうが」
文龍は眼を見開いた。
蘭輝は朝鮮語を喋るのだ! 十六の歳から十年以上もこの国にいるのだから、当たり前ではあるが、それでは何故、最初に清国の言葉を使ったのか。
刹那、彼の中で閃いた。
蘭輝はただ文龍を撹乱させるためだけに、わざと清国語を使って見せたのだ。怜悧なこの男は、義禁府の武官が自分を見張っていることを最初から知っていたに相違ない。
まさか、そこまでこちらの動きを見越されていたとは。文龍の怒りと焦燥が更に強まった。
彼が顎をしゃくると、他の男たちが次々と荷を解く。ざっと見積もって木箱は六個。蘭輝が開けさせたのはその中の二つで、一つからは眼にも鮮やかな絹布、三つめの箱からは見事な毛並みの虎の毛皮が出てきた。
まさに、一人の人間が一生、何もしなくても両班並みの暮らしを送れるだけの財宝だ。いや、一人でなく、一体何人がそんな暮らしを送れるのだろう?
今夜ひと晩で、この男はそれだけの財宝を国庫から盗み出した。更に何年も前から同様のことを繰り返していたのなら、どれほどの人が楽に過ごせるだけの財物を手に入れ、更にそれらを売り飛ばし、暴利を貪ったのだろう。
それだけの金があれば、飢えや疫病で苦しみ喘ぐ民を何十人、何百人と救えるのに。
民を救うべき国の財産を私有化して、私利私欲に耽る鬼畜にももとる恥知らずな奴らだ。
文龍の中で言い知れぬ怒りが沸々と煮えたぎる。怒りが文龍の理性をわずかに狂わせたことが、彼の判断を誤らせた。
文龍は走りながら、剣を抜いた。闇の中で凛花がくれた護身用の飾りが揺れる。虎目石が月の光を受けて光った。
「李蘭輝、貴様の悪事をしかと見届けた。観念して、大人しく縛に付け」
叫んだが、相手が大人しく捕まえられるとは最初から思ってはいない。
「義禁府の雑魚めが。格好をつけても、うぬは所詮、国王の忠犬であろうが」
文龍は眼を見開いた。
蘭輝は朝鮮語を喋るのだ! 十六の歳から十年以上もこの国にいるのだから、当たり前ではあるが、それでは何故、最初に清国の言葉を使ったのか。
刹那、彼の中で閃いた。
蘭輝はただ文龍を撹乱させるためだけに、わざと清国語を使って見せたのだ。怜悧なこの男は、義禁府の武官が自分を見張っていることを最初から知っていたに相違ない。
まさか、そこまでこちらの動きを見越されていたとは。文龍の怒りと焦燥が更に強まった。