山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第4章 暗闇に散る花
「どうやら、私に気づいたようだな」
口を覆っていた手のひらが離れ、思わず振り向いた凛花の眼に映ったのは、やはり朴直善であった。
彼は凛花を縛(いまし)めた手はそのままに、不遜に言った。
「思ったとおり、来たね。そなたなら、きっと来ると思った」
「あの手紙を書いたのは、やはり、あなたなのね」
フフと直善が陰気に笑った。
「流石に頭の回転が良い。私は馬鹿な女は嫌いだ。そなたをますます気に入ってしまったよ」
直善の手が伸び、凛花の頬を撫でた。
「触らないで!」
こんな男に触れられただけで、自分の心まで穢れてしまいそうだ。何て卑劣で、いけ好かない男だろう。
「私にそんなたいそうな口をきいても良いのか? そなたの恋しい男の生命は、ほれ、この手の中にあるのだよ」
謳うように言いながら、直善は片方の手で凛花を捕まえたまま、一方の手を上向けて振って見せた。
「馬鹿な」
一笑に付そうとした時、直善が笑った。
「嘘だと思うのなら、思えば良い。さあ、これから面白いものを見せてあげよう。そのために、そなたをここに呼んだのだからね。これから、恋しい男がそなたの眼の前で死ぬ。まさに、これ以上ないというほどの見せ物ではないか。朝鮮中でいちばんと呼ばれているパンソリでも、今夜の芝居ほど面白くはないだろう」
顔が笑っているのに、眼は笑っていない。以前にもまして冷ややかな光が凛花を射貫いている。
思わず、身体中の膚がザッと粟立った。
「来るんだ」
直善が言い、凛花の片手を掴んだまま、片方の手で強く背中を押した。ドンと殆ど突き飛ばすように押されたため、凛花の身体は前へとつんのめった。
「私をどうするつもりなの?」
恐怖に駆られながら訊ねると、直善は微笑んだ。
「大丈夫、そなたを殺したりはしない、凛花。本当にただ、面白い一世一代の見せ物を見せてあげるだけだから」
口を覆っていた手のひらが離れ、思わず振り向いた凛花の眼に映ったのは、やはり朴直善であった。
彼は凛花を縛(いまし)めた手はそのままに、不遜に言った。
「思ったとおり、来たね。そなたなら、きっと来ると思った」
「あの手紙を書いたのは、やはり、あなたなのね」
フフと直善が陰気に笑った。
「流石に頭の回転が良い。私は馬鹿な女は嫌いだ。そなたをますます気に入ってしまったよ」
直善の手が伸び、凛花の頬を撫でた。
「触らないで!」
こんな男に触れられただけで、自分の心まで穢れてしまいそうだ。何て卑劣で、いけ好かない男だろう。
「私にそんなたいそうな口をきいても良いのか? そなたの恋しい男の生命は、ほれ、この手の中にあるのだよ」
謳うように言いながら、直善は片方の手で凛花を捕まえたまま、一方の手を上向けて振って見せた。
「馬鹿な」
一笑に付そうとした時、直善が笑った。
「嘘だと思うのなら、思えば良い。さあ、これから面白いものを見せてあげよう。そのために、そなたをここに呼んだのだからね。これから、恋しい男がそなたの眼の前で死ぬ。まさに、これ以上ないというほどの見せ物ではないか。朝鮮中でいちばんと呼ばれているパンソリでも、今夜の芝居ほど面白くはないだろう」
顔が笑っているのに、眼は笑っていない。以前にもまして冷ややかな光が凛花を射貫いている。
思わず、身体中の膚がザッと粟立った。
「来るんだ」
直善が言い、凛花の片手を掴んだまま、片方の手で強く背中を押した。ドンと殆ど突き飛ばすように押されたため、凛花の身体は前へとつんのめった。
「私をどうするつもりなの?」
恐怖に駆られながら訊ねると、直善は微笑んだ。
「大丈夫、そなたを殺したりはしない、凛花。本当にただ、面白い一世一代の見せ物を見せてあげるだけだから」