山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第4章 暗闇に散る花
鬼神でも乗り移らなければ、これだけの腕は見せられないだろう。凛花は凄まじい腕を持つ相手の出現に言い知れぬ恐怖を憶えた。
直善を庇ったのには相違ないが、男は武官を切り棄てると、すっと直善から離れ、距離を取った。
一体、何者であろうと先刻の剣の主を探しても、既に彼(か)の人物が誰であったかは判別できなかった。
直善より大分離れた位置に、荷車を引いていた男たちや内官たちが集まっている。遠巻きにこちらを見ている内官の中には、あまりにも無惨ななりゆきに今にも失神しそうな者までいた。
凛花もまた言い知れぬ想いで、若い武官の死に顔を見つめる。この男は、つい先刻まで、ちゃんと生きていたのだ。それなのに、今はもう、固く閉じられた眼は何を映すこともない。
「おのれ、よくもチョンピョンを」
文龍が憤怒に燃えて吠えると、直善がゆったりと返す。
「雑魚に用はない」
「何だと?」
文龍の激高を嗤うかのように直善が笑った。
「この状況を少し利用させて貰おうと思ってな。マ、この跳ねっ返りには実に面白い見せ物を見せてやれる」
文龍がとんっと跳ね飛んで、凛花に近づく。まるで跳んだ瞬間が見えなかったほど、鮮やかな身のこなしであった。
「文龍さま、来てはなりません!」
私のことなら、大丈夫ですから。
そう言おうとした時、すかさず直善が凛花の身体を自分の方へ引き寄せた。
「文―」
直善が後ろから何か言いかけた凛花の首をぎりっと絞めた。
「凛花―、くっ」
攻撃を仕掛けようとしても、凛花を囚われたままではできない。
文龍は悔しげに顔を歪めた。
―私ったら、文龍さまをお守りするどころか、足手まといになっているだけだわ。
凛花もまた己れの無力感に打ちひしがれていた。
「これからがいよいよ山場といったところだな。さあ、どうする? 女の生命を助けたくば、さっさと剣を棄てることだ」
直善を庇ったのには相違ないが、男は武官を切り棄てると、すっと直善から離れ、距離を取った。
一体、何者であろうと先刻の剣の主を探しても、既に彼(か)の人物が誰であったかは判別できなかった。
直善より大分離れた位置に、荷車を引いていた男たちや内官たちが集まっている。遠巻きにこちらを見ている内官の中には、あまりにも無惨ななりゆきに今にも失神しそうな者までいた。
凛花もまた言い知れぬ想いで、若い武官の死に顔を見つめる。この男は、つい先刻まで、ちゃんと生きていたのだ。それなのに、今はもう、固く閉じられた眼は何を映すこともない。
「おのれ、よくもチョンピョンを」
文龍が憤怒に燃えて吠えると、直善がゆったりと返す。
「雑魚に用はない」
「何だと?」
文龍の激高を嗤うかのように直善が笑った。
「この状況を少し利用させて貰おうと思ってな。マ、この跳ねっ返りには実に面白い見せ物を見せてやれる」
文龍がとんっと跳ね飛んで、凛花に近づく。まるで跳んだ瞬間が見えなかったほど、鮮やかな身のこなしであった。
「文龍さま、来てはなりません!」
私のことなら、大丈夫ですから。
そう言おうとした時、すかさず直善が凛花の身体を自分の方へ引き寄せた。
「文―」
直善が後ろから何か言いかけた凛花の首をぎりっと絞めた。
「凛花―、くっ」
攻撃を仕掛けようとしても、凛花を囚われたままではできない。
文龍は悔しげに顔を歪めた。
―私ったら、文龍さまをお守りするどころか、足手まといになっているだけだわ。
凛花もまた己れの無力感に打ちひしがれていた。
「これからがいよいよ山場といったところだな。さあ、どうする? 女の生命を助けたくば、さっさと剣を棄てることだ」