山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第4章 暗闇に散る花
文龍の呼吸が次第に荒くなってゆく。ひどく苦しそうだ。凛花にも、既に彼の生命の焔が消えようとしているのが判った。
「死なないで」
凛花は文龍の身体に縋って泣いた。
自分のせいだ。凛花が直善の手紙を読んで、のこのことここに来たばかりに、文龍は任務に失敗してしまった。彼の相方の武官ばかりか、文龍までが生命を落とそうとしている。
文龍さまを守るなんて、偉そうなことを考えて。私ったら、本当にどうしようもない馬鹿だ。挑発としか思えない内容の手紙、誘いに乗ったばかりに、みすみす大切なひとを危険に晒してしまった。
凛花を盾に取られていなければ、文龍は自在に動けたはずだ。我が身の浅はかさを烈しく責めた。
「私のせいで、文龍さまを窮地に陥れてしまいました。本当にごめんなさい―」
文龍が手を伸ばし、凛花の頬に触れる。
「そなたのせいではない。私こそ、そなたを哀しませることを許してくれ」
文龍は最早、座っているのも辛いように見えた。眼で促され、凛花は文龍の身体をそっとその場に横たえた。唇から血が滴り落ちていた。
あの唇がほんのひと月前、凛花の唇を塞ぎ、凛花は荒々しく求められた。これまでにない文龍の烈しさに戸惑いながらも、凛花は恋人が積極的に自分を求めてくれることにひそかな歓びを憶えたのだ。その後、彼は凛花を優しく腕に抱いて言った。
―そなたには笑顔が似合う。いつも笑っていてくれ。
―そなたが泣くと、私は、どうふるまえば良いか判らなくなる。良い歳をした大人でも、ほら、このとおり、女を慰める言葉一つ、口にできぬ無粋な男だ。
凛花の眼からは今も、大粒の涙がひっきりなしに流れ落ちている。自分は最後まで、恋人を困らせてしまっているのだ。
〝最後〟、その実に不吉な響きを持つ言葉に、凛花は身震いする。
もう、二度と文龍からあんな風に口づけられることも、優しく抱擁されることもないのだろうか。
そう考えただけで、底のない奈落へと落ちてゆくようだ。文龍のいない人生に、何の意味があるというのだろう?
涙の幕が張った双眸に、逝こうとしている恋人の顔が滲む。
「死なないで」
凛花は文龍の身体に縋って泣いた。
自分のせいだ。凛花が直善の手紙を読んで、のこのことここに来たばかりに、文龍は任務に失敗してしまった。彼の相方の武官ばかりか、文龍までが生命を落とそうとしている。
文龍さまを守るなんて、偉そうなことを考えて。私ったら、本当にどうしようもない馬鹿だ。挑発としか思えない内容の手紙、誘いに乗ったばかりに、みすみす大切なひとを危険に晒してしまった。
凛花を盾に取られていなければ、文龍は自在に動けたはずだ。我が身の浅はかさを烈しく責めた。
「私のせいで、文龍さまを窮地に陥れてしまいました。本当にごめんなさい―」
文龍が手を伸ばし、凛花の頬に触れる。
「そなたのせいではない。私こそ、そなたを哀しませることを許してくれ」
文龍は最早、座っているのも辛いように見えた。眼で促され、凛花は文龍の身体をそっとその場に横たえた。唇から血が滴り落ちていた。
あの唇がほんのひと月前、凛花の唇を塞ぎ、凛花は荒々しく求められた。これまでにない文龍の烈しさに戸惑いながらも、凛花は恋人が積極的に自分を求めてくれることにひそかな歓びを憶えたのだ。その後、彼は凛花を優しく腕に抱いて言った。
―そなたには笑顔が似合う。いつも笑っていてくれ。
―そなたが泣くと、私は、どうふるまえば良いか判らなくなる。良い歳をした大人でも、ほら、このとおり、女を慰める言葉一つ、口にできぬ無粋な男だ。
凛花の眼からは今も、大粒の涙がひっきりなしに流れ落ちている。自分は最後まで、恋人を困らせてしまっているのだ。
〝最後〟、その実に不吉な響きを持つ言葉に、凛花は身震いする。
もう、二度と文龍からあんな風に口づけられることも、優しく抱擁されることもないのだろうか。
そう考えただけで、底のない奈落へと落ちてゆくようだ。文龍のいない人生に、何の意味があるというのだろう?
涙の幕が張った双眸に、逝こうとしている恋人の顔が滲む。