テキストサイズ

山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第5章 旅立ち

 申凛花としてチマチョゴリ姿で拝礼するのは恐らくこれが最後。都を一歩出たそのときから、〝皇文龍〟として生きてゆくのだから。そして、再び生きて都の地を踏んだとしても、今後は亡き恋人の父に逢うこともないだろう。文龍の死によって、皇氏との縁は事実上、切れたのだ。
 そう、凛花は亡き最愛の男となり、文龍が今も生きていれば送ることになったであろう生涯をその代わりに生きてゆくのだ。
 もし、文龍がそれを知れば、愕くより、きっと怒るだろう。
―相変わらず、私がちょっと眼を離したら、そなたは何をしでかすか判らぬ。
 文龍に心配されたり、怒られたりした頃がひどく懐かしい。あの頃からまだわずかしか経っていないのに、もう十年経ったような気がする。
 凛花にとって、文龍の存在はそれほど大きかったのだ。
「達者でな。くれぐれも任務を滞りなく果たして、無事に戻ってくるのだぞ」
「義父上さまもお元気で」
 凛花はもう一度、深々と頭を下げた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ