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温もり

第11章 七日目

 ぬるりとした冷たい物が彼女の手には多く付着しており、それが何なのかよく解る零九は胸が締め付けられる程に痛んだ。
 殴れられて赤く腫れた頬も、無理矢理突っ込まれて裂けた口角も、精液に塗れた全身も、どこを見ても、自分が休めるからそれで良いと、思ってしまった自分に酷く罪悪感が湧く。

「あーおぅ」

 自分とさして変わらないであろう年頃の彼女の口から出るのは、全く意味の解らない獣の声を真似ている様な物だけ。

「だい、じょ……か?」

 零九の口から出るのは、しわがれて掠れた、老人の様な声。それも途切れ途切れで聞き取りにくい。

「あう、おああいあー」

 彼女は何かを零九に言っているのだが、当然の事ながら彼には解らない。
 言葉を持たないLLならば何人も見て来たが、彼女ほど表情や声のニュアンスを見ても何を訴えているのか解らない者はいなかった。もしかすると、その見た目だけでなく、別の理由でもLLとしてナンバーを与えられず、研究室に連れて来られなかったのかもしれない。

「うあー、おおあーう」

 何かを伝えようと試みている彼女を鉄格子越しに見て、意志の疎通が無くとも、誰かがいるのは、独りより良いと思った。運命は変わらなくとも、誰かがそこにいるだけで、気持ち的に違った。

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