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温もり

第12章 八日目

「や……ろ……!」

 一度上げた声を止められず、零九は痛みと恐怖に震える手を伸ばして女を助けようとする。
 射精して満足したのか一人が彼女から離れ、荒い息をしたまま零九の方を見る。まるで生ごみでも見ている様な視線に、彼は怒りや悲しみではなく、羞恥を感じる。自分が汚れている事は自覚しているのだ。

「掃除の奴らに洗わせねぇか? マジで臭ぇ」

「あいつらにやらせたら殺すだろ」

「はっ、よくもまあまあ、殺しあう兄弟だよな。怖い怖い」

 二人の男の会話に零九は戦慄を覚える。掃除の奴らで兄弟と言えば、ニニ四やニニ三の事だろう。そして、彼らが殺しあうと言う事はどういう意味なのか。今の零九には考えたくもない事だ。そんな、おぞましい事。

「でもどうするよ? あいつが側にいちゃ、ヤル気も無くなるぜ?」

「んっ! まあ、まだ代わりはいるだろ? 良いんじゃね?」

「それもそうか」

 簡単にそんな事を口にする男と、兄弟を手にかけて来た自分、同じ様に殺していたらしい掃除係と、誰が一番恐ろしいのか、零九には最早解らなかった。
 ただ、恐ろしくて、温もりが恋しくて、ニニに会いたかった。今何をしているのかを聞きたかった。

 飽きたらしく、男達はさっさと出て行った。よほど零九の纏う臭気が酷いのだろう。
 残された女は獣の様な声を上げて泣き、零九は痛みと空腹と乾きに床にぐったりと倒れた。

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