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温もり

第13章 九日目

「あーう」

「よ、ぶな……」

 薄暗い檻の中、彼女の呼びかけに答えたくない零九は、それでも無下に出来ずに声を上げる。何を言っても意味が解らないのだから、何を言っても一緒だ。

「んーおう」

 やはり彼女は会話をしていると思っているらしく、別の音を出す。
 空腹と喉の渇きに座るのも辛い零九は、ゆっくりと寝返りを打って彼女を見る。
 服を与えられていない彼女は、薄暗い中でも判るほどに両足は腫れ、右足首は骨折しているのか、特に酷く腫れ上がっている。相当に痛いだろうに、会話をしようとしている神経が、零九には解らず、まだ何か言っている彼女をただ見るだけだ。

「おーおー?」

 大丈夫? と言うように彼女は首を傾げる。
 その顔にニニが重なり、胸が締め付けられる。
 彼女は今どうしているのだろう、いきなり居なくなった自分を心配してくれているのだろうか? そう思うが、同時に心配し過ぎて泣いてるだろうと思い当たり、心配なんかしなくて良いから笑って居て欲しいと思った。

「ニニ……」

 布団に入って来る彼女の温もりが恋しい。彼女の笑顔が見たい。彼女の声が聞きたい。抱き締めたい。
 隣の檻にいる、心配そうな表情の彼女を見上げる零九の目は流れる事はない涙で讃えられた。

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