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温もり

第15章 十一日目

 ガチャリ、と扉が開き、零九は反射的に起き上がり、全身の軋みに顔を歪ませる。ニニ五はゆっくりと上体を起こし、入って来たのがラディだと知って喉の奥で悲鳴を上げた。

「食事よ?」

 何を怖がってるの? と言う様にラディは笑い、檻の前に二人分のトレイを置く。昨日の事などなかったと言う様な態度に、零九は体を引きずり、トレイに乗った器に震える手を伸ばす。蓋を開けると、まだ湯気を上げるたまご粥で、隣の器には柔らかく煮た温野菜が入っていた。

「……あなたは、どこまで残酷な人なんだ」

 零九は絶望に屈する様に項垂れる。
 今の体にはそのメニューは嬉しい。だが、惨めな死を待つ身には、それは悪戯に命を引き伸ばされるだけとしか感じない。

「食べたくないなら、食べなくて良いのよ?」

 ラディはそれを見越して笑い、零九の後ろで動こうともがいて居るニニ五を見る。

「昨日は無理させちゃったから、これは謝罪よ? ふふっ、それともいらなかった?」

 ラディは嗤う。
 彼らは空腹を堪えて食事を拒否出来ないと知っているのだ。ニニ五は昨日まで普通に食事を摂っていたが、零九は数日水しか与えていない。目の前に出された温かい食事を拒絶出来るはずもない。
 決して喜びではない涙を流しながら、体を引きずり、貪る様に食べる息子達を見ながら、ラディは嗤う。

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