テキストサイズ

温もり

第2章 妹

 零九は廊下を走るが、疲労は完全には癒えていないので、すぐに息が上がってしまった。たかがこの程度で走れなくなる自分の回復力の低下に、自らの死期を悟る。弟達を奪ったあの病が自分にも、妹にも牙を剥いていると零九は知っている。

 ニニはまだ俺がこうだと知らない。知ればきっと、酷く悲しむ。

 彼女を泣かせる事はしたくは無かった。苦しませる事も。
 
 
 
 零九はしばらく歩き、無意識に研究員達に与えられた部屋の集まる棟に来ていた。
 実験、と称して研究員達の性欲処理に使われている彼女が望んでここには来ないが、ラディを引き合いに出されれば拒否する術は無い。

 ドゴォ! と爆発音が響き、扉の一つが大きく弾け、半裸の男が廊下の壁に叩きつけられる。その部屋から泣いているニニの手を掴んだラディが現れ零九は、どう言う事だろう、と疑問を感じつつ近寄る。

「あら、丁度良い所に来たわね?」

 ラディはクスクス笑いながらニニの手を離す。彼女は壁に叩きつけられて呻いている研究員の顔を踏み、ニニは零九に抱きつく。

「言う事聞かないとラディに言うって言われて……!」

 しがみついて泣く彼女の頭を撫でて落ち着かせながら、研究員を蹴っているラディを見る。
 ニニは恐らく、零九が部屋に戻って来る前にこの時間にここに来る様に言われたのだろう。そして、行為に及ぼうとした時、ラディが彼女を助けた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ