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温もり

第4章 母

 クスリ、とラディは笑みを浮かべる。

「いい子ね? ちゃんとお願いできるようになったの?」

 ご褒美、と言う様に彼女は零九にキスをする。今にも触れそうなニニがもぞもぞと動き、その気配に彼は離れようとするが、ラディは許さない。

「初めてちゃぁんとお願いしたんだから、聞いてあげないとね?」

 クスクスとラディは笑い、ニニがまだ眠っているのを確認し、零九を立たせる。
 ニニが眠っている事に安心し、彼はラディの後を着いて部屋を出る。

「……愛してるよ」

 自分のベッドに縋り付いて眠っている最愛の少女に向かって言う。
 何度も何度も口にした言葉が、今は重く感じる。彼女の命を奪おうとした事もあるが、それ以上に、もう会えない気がした。
 零九は扉を閉める事が出来ず、暗い部屋の中で眠っているニニを見る。起きて欲しい、起きて欲しくない、その思いは同時に湧き上がり、目頭が熱くなった。

「一五零の零九?」

 迷っている彼を愉快そうに眺めながらラディは言う。

「良いのよ、来なくても。貴方が決めなさい?」

 薄暗い廊下で、ラディの存在はいつも以上に不気味で、心臓を恐怖で鷲掴みにされるような感覚すら感じ、冷や汗が流れる。

「あの子を解放してあげたい? ふふっ、それとも、このまま一緒に居たい?」

 ラディに再び問われ、零九は眠っているニニを見る。

 そして、扉を閉めた。

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