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温もり

第5章 地獄

 いつ朝が訪れたのか零九は知らない。ただ、部屋に研究員達が入って来た事で、夜は終わりを告げたのを知った。

「ああ? 何だよ、男かよ」

 白衣も着ていない男が、檻の中にいる零九を見て吐き捨てる。後ろから入ってきたラディがクスクスと笑い、男の体に絡みつく。

「すぐに壊れるから、頑丈なのが欲しいって言ったのは貴方じゃない。コレは頑丈よ。ちょっとやそっとじゃ壊れないわ」

 妖艶で仕草で男の耳元で笑い、零九を見下ろす。その目はいつもと同じ、いや、それ以上に物体を見ている様で、完全に彼女に見捨てられたのだとそれだけで理解した。

「ラディ! ニニは助けてくれるんだろ!?」

 零九はその目に約束を違える可能性を感じて、恐怖に背筋を凍らせて叫ぶ。何故彼女に救いを求めたのか、彼女が約束を守ると思ってしまったのか、零九は自分を呪う。あの時、例え彼女に復活させられても、ニニの首を絞めていれば、ニニの手を取って二人で研究所から飛び出せば良かったと、そう思う。

「ふふっ、貴方が良い子にしてれば助けてあげるわよ?」

 ラディは男に絡みついたまま答える。

「言葉話せるのか? こいつ。面倒臭ぇな」

「喋れて当たり前よ。殺処分してた子よ?」

「ああ、あのムカつくやつか。こいつは良いな」

 檻に居るのが零九だと理解した男はニヤニヤと笑い、ラディもクスクスと笑う。その表情に零九はゾッとして二人から逃げるように無意識に後ずさりをする。

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