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温もり

第5章 地獄

 げぇ、とまるで蛙の鳴き声の様な声を上げ、零九は激しくえずく。吐き出す物が無い代わり、大量の唾液が出て来た。

「なんだよ今の声!」

 男は息が詰まって涎を垂らしながら喘いでいる零九を見下ろしてゲラゲラと笑う。ラディもおかしそうに笑い、檻の中に入って来る。鉄の柵をすり抜けて入って来ているのだが、男は別段驚く様子は見せない。

「もう一度鳴かせてあげましょうか?」

 うふふ、とラディは笑い、片足を上げる。零九は振り下ろされるのを察知して、咄嗟に転がって避ける。当て損ねた彼女の足が床を踏みつけ、ズンッと重い音を立てたのを聞いて彼は血の気を引かせる。

「あら、逃げるんじゃないの」

 ラディは痛ぶるようにゆっくりと歩き、蹴られて痛む腹を庇っている彼を見る。恐怖に引き攣る顔に、彼女は言った。

「逃げるなら、いつまでも逃げなさい。でも、そんな事したら、いつまでもこの人達は満足しないわよ?」

 目に狂気を宿し、嗜虐性しか見せない彼女はこの上無く恐ろしい。考えなくとも、一思いに殺してくれた方がいっそ楽だと思える状況になる事が解る。そして、それを乗り越えなければ、決してニニを解放しないと言う事も。

 俺の残りの命は少ない。後一ヶ月位だろう。俺と一緒に逃げたとしても、俺はすぐに死ぬ。なら、確実に解放してくれる方にかけないと、ニニはもっと辛い目に遭う。

 零九は自分に言い聞かせ、ラディの蹴りを再び腹部に食らう。
 激痛に一瞬気を失っているのか、腹に衝撃を感じてから、頭を床に打ち付けるまで頭が真っ白になる。それから来るのは強烈な吐き気。激痛はそれから徐々に無意識に声を上げてしまう程に強くなっていく。

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