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温もり

第5章 地獄

 息が上がり、疲労から零九を蹴るのに飽きた男は、最後にぐったりしている彼の腹を踏みつけた。

「あら、もう良いの?」

 クスクスと笑うラディの姿はぼやけてよく見えず、声が壁や頭に反響して聞こえる。顔も頭も肩も、ズキズキと痛んで動く気力がない。最初にラディに蹴られた腹部のダメージは大きく、最後に男に踏みつけられて、再び激しく痛み始める。

「頑丈っても、こんだけで動かなくなるんじゃ、大した事ねぇよ」

「ああ、この子もうすぐ死ぬのよ」

 二人の会話に嫌な物を感じつつも、動く気力もなく、目のダメージからも回復していない零九はぼやける視界の中、近づいて来るラディをただ眺めている。
 集中して蹴られた右手をグイっと引っ張り、肩が酷く痛んで零九は苦痛に顔を歪めて悲鳴を何とか堪える。ラディを睨む気力はなく、堪えきれなかった呻きが震える唇から漏れる。

「ふふっ、LLの命がどうして短いか疑問に思った事ない?」

 謎めいた事を言い、反応を見る様に目眩から立ってもフラフラしている零九を見る。考えようにも、痛みに吐き気に目眩に、思考能力はほとんど失われて、思う事は早く手を離して欲しいと言う事だけ。

「乗の契りと、肉体の酷使だけじゃ、十代で死ぬなんてあり得ないわよ。もしそうなら、乗の契りを使っていた騎士達はどうなのよ、って話でしょ?」

 なんの話なのか、それも零九には解らない。だが、強烈な嫌な予感に頭は警報が鳴り響き、どうにか彼女から逃れようと思うが、腹と肩の痛みがそれを許さない。

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