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温もり

第9章 五日目

 零九の食事はゆっくりと進行する。
 それは、食事が終わればまた暴力の嵐が始まる事を恐れる彼の心が大きく作用していた。だが、ラディはそれを知りながら淡々と食事をスプーンに乗せて彼に与え、無情にも着実に料理が減って行く。

 そして、食事が終わり、ラディは淡々と排泄物の処理を行い、檻から出て行こうと背を向けた。

「い……か……」

 零九は彼女の手を必死になって掴み、声をあげる。

「なによ」

 ラディは苛立った様に言って振り向き、泣きながら引き止める息子を見下ろす。
 非常に愉快である。この息子はずっと憎しみと敵意という暗い炎を宿らせて自分を見下ろしていた。反抗せずに従っていたのは、そうしていた方が攻撃を受けないで済むからであり、内なる思いとは真逆の行動である。

 それが、今はどうであろう。
 理由はどうあれ、必死に、心の底から自分を求めている。これが愉快意外の何を感じるだろうか。
 だが、ラディは暴力に怯えて、震えて泣いて、縋っている息子をそっと突き放した。

「い……いか……」

 零九は彼女を追いかけるが、追いつかない。

 そして、檻が閉じられた。
 格子の間から彼は手を伸ばしてラディを捕まえようとするが、僅かに触れる事は数度あっても、掴めなかった。

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