いつもそこには、君がいて
第2章 2 水曜日
座った菊川くんの背中を見てると、昔、三上さんが日報や売り場計画を書き、その後ろでこうして掃除していた頃を思い出す。
『フジコ、ちょっとこい』
『フジコ、これ、やってみ?』
口はめっぽう悪いが、根っからの兄貴肌でホントはめちゃくちゃ優しい三上さん。
そんな感じで、細かいところまでいつも私がわかるように教えてくれた。
当時は、新しく覚えるということが楽しくて、それを自分で消化しながら活かせることが嬉しかったのだ。
「フジコさん、これって歩留(ぶど)まり計算するんでしたっけ?」
「さぁ〜? それは前にも教えましたよ、菊川くん」
歩留まりというのは、仕入れた生肉ブロックを商品化する際に、食用とはならない筋や余分な脂などを除いた、商品になる部分がどのくらい得られるかという比率をあらわすもの。
わかってるのに自信がない、めんどくさい。だからやらない。
これが菊川くん。
商品化は私なんかよりはるかに綺麗で、今ではランクの高い和牛ギフトのスライスは菊川くんに依頼がくるほどの腕前なのだから、日常の業務管理さえできれば申し分ない人材なのだ。