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いつもそこには、君がいて

第2章 2 水曜日


 なかなかはかどらない苦手な仕事に、ちょっとイライラしてる菊川くんを、福田さんとクスクス笑いながら見ていた。

「あ〜、もう、福田さーん。助けてくんない?」

「あ、無理ですから、俺」

 冷蔵室に発注していたブランド豚のロースとバラの真空パックをしまいながら、菊川くんのたのみを間髪入れずに切り捨てた福田さん。

 こんないつものやりとりが、なんだかとても楽しくて嬉しかった。


「はぁ? どいつもこいつも俺の周りは鬼ばっかだな。しっかしなんで、いきなりこんなことさせるんですか。まったく」

「それは……、ねえ、峰さん?」

 冷蔵室のでかくて重い扉を閉めながらこちらを向いた福田さんは、その距離から私の様子を伺ってきた。

 思わず出た、苦笑い……

 私はなぜか、内示のことを菊川くんに言えないでいた。

 たとえ手が空かなくても「異動になった」とたった一言、報告すればいいのだから、いつだって言えたはずなのに。

 そして、今も言うべき機会なのかもしれないのに、何故か口から出てこない。

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