いつもそこには、君がいて
第1章 1 月曜日
ふと手元へと目を落とすと、赤いボールペンで書かれた、長いこと見慣れているきたない文字が並んでいて、思わず顔がほころんだ。
『フジコ、これでいいか? 三上』
私が入社した時からお世話になっている上司・三上さんの文字。
三上さんは、苗字が「峰」だというだけの理由で、私のことを「フジコ」とあだ名で呼ぶようになった。
それ以来、みんなから「フジコ」と言われるようになり、「沙織」という本名を知らない人さえいるくらい。
『見てくれは全然“不二子ちゃん”じゃねぇなぁ』
背も低いし、くびれもたいしてもっていない私に向かって、こんな意地悪な言い方をする人だが、仕事上では誰よりも頼れる父のような、兄貴のような上司なのだ。
今では、本部付けの精肉チーフバイヤーになった三上さんのメッセージが、歩くたびに自分自身の問い掛けとなって頭の中を満たしてくる。
これでいいのかって言われたって、もう引き返せないじゃない……