
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第6章 第二話・其の弐
この嫌みなほど自信過剰な男の言葉がどこまで本気なのか見当もつかない。単なる言葉だけの戯れかけなのか、どうか。
が、仮にも尾張藩主の妻をこうまで堂々と口説くということ自体が信じられないことである。先刻も感じたことだが、よほどの愚者か、それともただの女好きなのか。
軽佻浮薄そうに見えて、実は油断ならぬ男、何を考えているか底の知れぬ男。そういった印象を、美空はこの男に対して抱いた。
気詰まりな沈黙が辺りに満ちる。
俊昭は感情の読み取れぬ眼で美空を見据えていた。
まさにその時。
「俺の妻を口説くのは止めて貰おう」
凛とした声がその静寂を破った。
「殿」
孝俊が二人のやや後方に佇んでいた。この時刻、いつもなら表で政務を執っている時間帯だ。常であれば、奥向きに姿を見せることなどない。
美空は訝しく思いながらも、良人の訪れにホッとしていた。このまま、この得体の知れぬ男といつまでも対峙しているのは正直、苦痛だった。戯れだけの恋なぞ、所詮は空しいだけ。恐らく俊昭と美空は恋そのものに対する、いや、人を愛することに対しての価値観そのものが根本的に異なるのだろう。
刹那的に生きようとする俊昭の考えには付いてゆけそうにもない。たとえ不器用でも良いから、真摯に生きてゆきたいと美空は思うのだ。
「これは珍しいお客人だな。何かご用でもおありか」
口調はやわらかだが、孝俊の顔が強ばっている。
俊昭が軽く肩をすくめた。
「生憎と品行方正な孝太郎どのと違い、私は昔から女好きで通っているのでね。良い女を眼の前にして口説くなと言われても、土台無理な話だ」
孝俊の表情が更に硬くなった。
「良い加減にしないか、ここをどこだと思っている。当主以外の男は一切出入り禁止の場所だぞ」
「ホウ、これは、またいたした執心だ。穏やかな人柄で知られる孝太郎どのがそこまで血相を変えるとは。しかし、孝太郎どのをそこまで熱くさせるこのご内室、なるほど、良い女だ」
俊昭はさも面白げに言い、美空を一瞥する。
が、仮にも尾張藩主の妻をこうまで堂々と口説くということ自体が信じられないことである。先刻も感じたことだが、よほどの愚者か、それともただの女好きなのか。
軽佻浮薄そうに見えて、実は油断ならぬ男、何を考えているか底の知れぬ男。そういった印象を、美空はこの男に対して抱いた。
気詰まりな沈黙が辺りに満ちる。
俊昭は感情の読み取れぬ眼で美空を見据えていた。
まさにその時。
「俺の妻を口説くのは止めて貰おう」
凛とした声がその静寂を破った。
「殿」
孝俊が二人のやや後方に佇んでいた。この時刻、いつもなら表で政務を執っている時間帯だ。常であれば、奥向きに姿を見せることなどない。
美空は訝しく思いながらも、良人の訪れにホッとしていた。このまま、この得体の知れぬ男といつまでも対峙しているのは正直、苦痛だった。戯れだけの恋なぞ、所詮は空しいだけ。恐らく俊昭と美空は恋そのものに対する、いや、人を愛することに対しての価値観そのものが根本的に異なるのだろう。
刹那的に生きようとする俊昭の考えには付いてゆけそうにもない。たとえ不器用でも良いから、真摯に生きてゆきたいと美空は思うのだ。
「これは珍しいお客人だな。何かご用でもおありか」
口調はやわらかだが、孝俊の顔が強ばっている。
俊昭が軽く肩をすくめた。
「生憎と品行方正な孝太郎どのと違い、私は昔から女好きで通っているのでね。良い女を眼の前にして口説くなと言われても、土台無理な話だ」
孝俊の表情が更に硬くなった。
「良い加減にしないか、ここをどこだと思っている。当主以外の男は一切出入り禁止の場所だぞ」
「ホウ、これは、またいたした執心だ。穏やかな人柄で知られる孝太郎どのがそこまで血相を変えるとは。しかし、孝太郎どのをそこまで熱くさせるこのご内室、なるほど、良い女だ」
俊昭はさも面白げに言い、美空を一瞥する。
