
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第8章 第二話・其の四
徳千代が昼寝から目覚めるまでにはまだ一刻余りはある。それまで、また、こうして庭を眺めていようと思った。それにしても、霜月に入ってから、自分でも愕くほど食が落ちた。食べようと思っても、食べられないのだ。
多分、唐橋から言い渡されたこと―宥松院が孝俊に側室を勧めようとしている―が原因なのだろうと思う。智島がいたく心配するゆえ、無理にでも食べようとするのだが、食は細るばかりで、今日の昼餉も殆ど手付かずで返すことになってしまった。
烏瓜の赤色が眼に眩しい。美空は何度かまたたきし、眼を細めた。庭には色とりどりの小菊も群れ咲いている。春のような華やかさはないけれど、秋の花が咲くこの季節もなかなかのものだ。
しかし、この花が散れば、直に冬が来る。すべてのものが灰色の陰鬱な色に塗り込められた冬。これまで特に冬が嫌いではなかった美空だが、今年に限って冬の訪れが何となく厭になってしまう。恐らく、美空自身の心のありようが大きく関係していることは間違いない。それでなくともふさぎ込みがちなのに、周囲の光景までが灰色に閉ざされてしまたら、余計に気分が落ち込んでしまいそうだからだ。
赤い実を眺めながら、そんなことをとりとめもなく考えていると、突如として胸の奥から烈しい吐き気がせり上がってきた。
「―」
美空は片手で口許を覆い、愕然とした。
これは、もしや―。
既に一度経験済みなせいか、予兆を感じた。
もしかしたら、ここ半月ばかりの不調は身ごもったせいなのかもしれない。もっとも、不調とはいっても、ただ食が落ちただけで、まさかそれが悪阻の初期症状だとは考えもしなかったのだけれど。
どうすれば良いのだろう。とにかく薬師を呼んで診て貰わねばならない。ここのところ月事もずっと訪れてはおらず、間違いないとは思うものの、勘違いということもあり得る。
以前のように裏店住まいの夫婦ならともかく、今の我が身は尾張藩主の妻なのだ。殊に重臣一同が第二子の懐妊を待ち望んでいる今、迂闊なことは言えない。孝俊に報告するのも、懐妊だと判明してからの方が良いだろう。
多分、唐橋から言い渡されたこと―宥松院が孝俊に側室を勧めようとしている―が原因なのだろうと思う。智島がいたく心配するゆえ、無理にでも食べようとするのだが、食は細るばかりで、今日の昼餉も殆ど手付かずで返すことになってしまった。
烏瓜の赤色が眼に眩しい。美空は何度かまたたきし、眼を細めた。庭には色とりどりの小菊も群れ咲いている。春のような華やかさはないけれど、秋の花が咲くこの季節もなかなかのものだ。
しかし、この花が散れば、直に冬が来る。すべてのものが灰色の陰鬱な色に塗り込められた冬。これまで特に冬が嫌いではなかった美空だが、今年に限って冬の訪れが何となく厭になってしまう。恐らく、美空自身の心のありようが大きく関係していることは間違いない。それでなくともふさぎ込みがちなのに、周囲の光景までが灰色に閉ざされてしまたら、余計に気分が落ち込んでしまいそうだからだ。
赤い実を眺めながら、そんなことをとりとめもなく考えていると、突如として胸の奥から烈しい吐き気がせり上がってきた。
「―」
美空は片手で口許を覆い、愕然とした。
これは、もしや―。
既に一度経験済みなせいか、予兆を感じた。
もしかしたら、ここ半月ばかりの不調は身ごもったせいなのかもしれない。もっとも、不調とはいっても、ただ食が落ちただけで、まさかそれが悪阻の初期症状だとは考えもしなかったのだけれど。
どうすれば良いのだろう。とにかく薬師を呼んで診て貰わねばならない。ここのところ月事もずっと訪れてはおらず、間違いないとは思うものの、勘違いということもあり得る。
以前のように裏店住まいの夫婦ならともかく、今の我が身は尾張藩主の妻なのだ。殊に重臣一同が第二子の懐妊を待ち望んでいる今、迂闊なことは言えない。孝俊に報告するのも、懐妊だと判明してからの方が良いだろう。
