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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第8章 第二話・其の四

だが、自分を嫌っている宥松院は、二度目の懐妊をどのように受け止めるか。あの姑にとって、美空の懐妊はけして歓迎すべきことではなかろう。流石に今度は美空の腹に宿った子が孝俊の種かどうかと疑いはすまいが、また身分賤しい女の腹に尾張家の血を引く子ができたと不快に思うことは必定だ。
 めまぐるしく思考を回転させながら、美空は、ふと哀しい想いに囚われた。
 どうして、一々、こんなことを考えねばならないのか。身ごもったことを素直に歓んではいけないのか。自分が生む子は皆、ここでは歓迎されない、望まれぬ子なのか。
 そう思うと、やるせなくなって、泣けてくる。美空は声を殺して、低い嗚咽を洩らした。
 いかほど経っただろう。
 漸く泣き止み、ゆるゆると面を上げた美空の頭上から、聞き憶えのある声が降ってきた。
「また泣いているのか?」
 孝俊の声ではない。
 美空は泣き腫らした顔を俊昭に見られたくなくて、うつむいたまま言った。
「殿は表の方にいらっしゃいます。お逢いになられるのであれば、そちらにお行き下さりませ」
「いや、私は孝太郎どのに逢いにきたわけではない。あなたに逢いにきたのだ」
 美空は弾かれたように顔を上げた。
「もう止めて下さい。孝俊さまへの反発心だけで私をからかうのは止めて下さい」
 叫ぶように言って、ハッとした。
 俊昭の視線と美空の視線が絡み合う。
―泣き顔を見られてしまった。
 美空は咄嗟に顔を背けた。
「ごめんなさい、私、今はひどい顔をしているので―。みっともないところをお見せしてしまいました」
 美空が消え入りそうな声で詫びると、俊昭は首を振った。
「いや、みっともないことなどないぞ」
 次の瞬間、美空の華奢な身体は、ふわりと俊昭に抱きしめられていた。
 美空は我が身に起こったことが俄には信じられなかった。
「は、放して下さい!!」
 毅然として抗議したつもりなのに、哀願するような響きになってしまう。
 何とかして俊昭の腕から逃れようと実を捩るが、俊昭は優男に見える外見からは信じられないほど力が強かった。

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