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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第10章 第三話・其の弐

 そう言って笑った男の顔が何故か、妙に懐かしかった。たった今、別れたばかりの誠志郎にもう一度、逢いたいと思う。
 その心の奥底を覗けば、一体、どのような感情が潜んでいるのか―。だが、美空はそんなことを考えるゆとりもなく、走り出していた。
 雪の中を走る。
 降り止まぬ雪のなかを―。
 ただ一心に走った。
 だが、誠志郎の姿はもうどこにも見当たらなかった。漸く追いついたのは、村への入り口でもある辻堂―弘法大師を祀っているという小さな御堂の前であった。御堂は大人一人がやっと横になれるほどの広さがあり、その傍らに小さな池がひっそりと横たわっている。

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