
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第10章 第三話・其の弐
「幸いにも当家にはまだ今一人、孝次郞がおる。世継は孝次郞とすれば良い」
平然と言い放った孝俊に、美空は縋るように訴えた。
「殿、昔(いにしえ)より嫡子の座にありながら、廃嫡されて僧籍に入るとは、よほどの罪を犯した者のみにございます。まだ頑是なきあの子がそれほどの大罪を犯すはずもなく、第一、身体の弱い徳千代を寺などに入れれば、あの子はすぐに病になって死んでしまいましょう」
「徳千代自身には何の罪科もない。さりながら、そなたは死をもってしても贖い切れぬほどの罪を犯した。徳千代は哀れだが、母の罪を背負って貰う」
孝俊は抑揚のない声で淡々と言う。
美空は悲鳴のような声を上げた。
「徳千代は殿ご自身のお子ではございませんか。それなのに、何ゆえ、そこまでお憎しみあそばされます」
「まだ判らぬか。全く、愚かな女子だな。俺は徳千代が憎いのではない、俺を裏切ったそなたが憎いのだ」
その時、美空は悟った。
これは、復讐なのだ。孝俊から裏切りという許し難い罪を犯した女への。
徳千代は見せしめに罰せられる。孝俊を裏切った美空の身代わりとして。
「それでも、そなたが帰らぬというのであれば、致し方ない」
孝俊が無情に言い放ち、立ち上がる。
美空は泣きながら、孝俊の袴の裾を掴んだ。
「お待ち下さいませ。どうか、どうか、私をひと想いに殺して下さい。この場で私をお切り捨て下されば、殿の御心も幾ばくかはお済みになられましょう。ですから、どうか徳千代はそのままに、寺などには入れないで下さいませ」
泣きじゃくる美空に、頭上から冷たい声が降ってくる。
「そなたを殺すことは容易い。だが、そなたの生命を奪うても、俺の心は安まらぬ。そなたは俺を裏切るという形で応えを出した。ならば、これが、俺のそなたへの応えだ。俺を裏切ったそなたへ、俺なりのやり方で応えを返したまでのこと」
平然と言い放った孝俊に、美空は縋るように訴えた。
「殿、昔(いにしえ)より嫡子の座にありながら、廃嫡されて僧籍に入るとは、よほどの罪を犯した者のみにございます。まだ頑是なきあの子がそれほどの大罪を犯すはずもなく、第一、身体の弱い徳千代を寺などに入れれば、あの子はすぐに病になって死んでしまいましょう」
「徳千代自身には何の罪科もない。さりながら、そなたは死をもってしても贖い切れぬほどの罪を犯した。徳千代は哀れだが、母の罪を背負って貰う」
孝俊は抑揚のない声で淡々と言う。
美空は悲鳴のような声を上げた。
「徳千代は殿ご自身のお子ではございませんか。それなのに、何ゆえ、そこまでお憎しみあそばされます」
「まだ判らぬか。全く、愚かな女子だな。俺は徳千代が憎いのではない、俺を裏切ったそなたが憎いのだ」
その時、美空は悟った。
これは、復讐なのだ。孝俊から裏切りという許し難い罪を犯した女への。
徳千代は見せしめに罰せられる。孝俊を裏切った美空の身代わりとして。
「それでも、そなたが帰らぬというのであれば、致し方ない」
孝俊が無情に言い放ち、立ち上がる。
美空は泣きながら、孝俊の袴の裾を掴んだ。
「お待ち下さいませ。どうか、どうか、私をひと想いに殺して下さい。この場で私をお切り捨て下されば、殿の御心も幾ばくかはお済みになられましょう。ですから、どうか徳千代はそのままに、寺などには入れないで下さいませ」
泣きじゃくる美空に、頭上から冷たい声が降ってくる。
「そなたを殺すことは容易い。だが、そなたの生命を奪うても、俺の心は安まらぬ。そなたは俺を裏切るという形で応えを出した。ならば、これが、俺のそなたへの応えだ。俺を裏切ったそなたへ、俺なりのやり方で応えを返したまでのこと」
