
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第10章 第三話・其の弐
え、と、美空は大きな眼を見開いた。
「私はもう江戸に戻るつもりはございません」
震える声で応えると、孝俊は口の端をつり上げた。
「そなたの気持ちを今更、斟酌をする必要はない。そなたは我が妻じゃ。徳千代と孝次郞も母の帰りを待ち侘びておる」
予測もしていなかったところで愛し子の名を持ち出され、美空はハッと胸を突かれた。
徳千代はまた我が儘を言って、皆を困らせてはいないだろうか。やんちゃなくせに、身体の弱い徳千代のことだ、風邪など引いてはいないだろうか。
孝次郞はどれだけ大きくなったことか。
もう歩くのも上手になったことだろう。
幼い子どもたちのあどけない笑顔が甦り、胸を締めつける。
「子らは、徳千代と孝次郞はいかが致しておりますか、二人共に健やかに致しておりましょうか」
勢い込んで訊ねると、孝俊があからさまに蔑むようなまなざしを向ける。
「よくも言うたものよな。幼き我が子を捨てたも同然の母親が今更、そのようなことを口にするとは笑止ではないか」
「―」
心ない言葉が鋭利な刃となり、その切っ先が美空の心を深く抉る。返す言葉すらもなく唇を噛みしめた。
孝俊は、そんな美空を依然として氷のような鋭い視線で見据えていた。
「そうだな、もし、どうでもそなたが俺と共に江戸に戻らぬというのであれば、徳千代を仏門に入れるとしよう」
「―!」
その刹那、美空の眼が孝俊を射るように大きく見開かれた。
「そんな、まだ三つになったばかりのあの子を仏門にだなんて」
ひとり言のように呟くと、ガバと顔を上げ、孝俊を見上げた。
「徳千代は大切な世継だとあなたさまも仰せられたのでありませんか。それなのに、あの子を仏門に入れるとは、いかなるご了見にございましょう」
「私はもう江戸に戻るつもりはございません」
震える声で応えると、孝俊は口の端をつり上げた。
「そなたの気持ちを今更、斟酌をする必要はない。そなたは我が妻じゃ。徳千代と孝次郞も母の帰りを待ち侘びておる」
予測もしていなかったところで愛し子の名を持ち出され、美空はハッと胸を突かれた。
徳千代はまた我が儘を言って、皆を困らせてはいないだろうか。やんちゃなくせに、身体の弱い徳千代のことだ、風邪など引いてはいないだろうか。
孝次郞はどれだけ大きくなったことか。
もう歩くのも上手になったことだろう。
幼い子どもたちのあどけない笑顔が甦り、胸を締めつける。
「子らは、徳千代と孝次郞はいかが致しておりますか、二人共に健やかに致しておりましょうか」
勢い込んで訊ねると、孝俊があからさまに蔑むようなまなざしを向ける。
「よくも言うたものよな。幼き我が子を捨てたも同然の母親が今更、そのようなことを口にするとは笑止ではないか」
「―」
心ない言葉が鋭利な刃となり、その切っ先が美空の心を深く抉る。返す言葉すらもなく唇を噛みしめた。
孝俊は、そんな美空を依然として氷のような鋭い視線で見据えていた。
「そうだな、もし、どうでもそなたが俺と共に江戸に戻らぬというのであれば、徳千代を仏門に入れるとしよう」
「―!」
その刹那、美空の眼が孝俊を射るように大きく見開かれた。
「そんな、まだ三つになったばかりのあの子を仏門にだなんて」
ひとり言のように呟くと、ガバと顔を上げ、孝俊を見上げた。
「徳千代は大切な世継だとあなたさまも仰せられたのでありませんか。それなのに、あの子を仏門に入れるとは、いかなるご了見にございましょう」
