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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第11章 第三話〝花笑み~はなえみ~〟・其の参

智島が立ち上がり、行灯に火を入れる。
 二月半ばは、まだ陽が落ちるのも早かった。
 そろそろ夕闇が立ち込め始めた室内に、庭の梅の樹が影を落としている。
「智島、その本をこちらへ」
 何の気なしに言った美空だったが、智島はすぐに本を差し出した。
 手渡された時、書物の間に何やら挟み込んであるものに気付く。訝しみながらも何か挟み込んでいるところを開くと、はらりと畳に落ちたものがあった。拾い上げると、折り畳んだ薄様の紙だった。孝俊が栞代わりに使っていたものと思われる。
 無意識の中に視線を落とすと、丁度、たった今開いたばかりの箇所には流麗な手蹟で歌が書き付けてあった。

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