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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第12章 第四話・其の壱

「御台さま、お言葉にはございますが、我等の心が御台さまにご理解頂けますでしょうか」
 光る桜に視線を向けていた美空の耳を、予期せぬ永瀬の声が打った。
「それは、いかなる意味か、永瀬」
 問えば、永瀬はうっすらと微笑む。
「私にせよ、先代の総取締滝川さまにせよ、皆おしなべて大奥にご
奉公するお女中衆というものは一生奉公にござります。その言葉が
何を意味するか、御台さまは、そも、ご存じにござりますか」
「それは、永瀬さま、言わずと知れたことにございましょう。一生奉公とは即ち、親兄弟に何か変事ありしとき以外はけして大奥の外へも出ず、女の一生をこの場所で終えるということに他なりませぬ」
 美空に代わり、傍らに控える智島が応える。
 その返答に、永瀬は今度は智島の方に向き直った。
「さよう、智島どのの仰せのとおりにございます。一生奉公と申すのは、それほどの覚悟を持ちて望むものにございます。嫁入り前の娘が花嫁修業のために奉公に上がるのとは、ちと異なりまする。さればでございまする」
 永瀬はそこで再び美空の方に直り、わずかに膝をいざり進めた。
「御台さま、我等はそこまでの覚悟を秘めたる身にて、公方さま、御台さまただお二方をおん大切にと一途にお仕え参らせております。その我等の愉しみと申せば、せめて衣装選びや芝居見物に見い出すしかございませぬ」

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