激愛～たとえ実らない恋だとしても～
第14章 第四話・其の参
矢代は微笑んで美空を見つめた。
「でも、私、今日やっと得心がいったような気がいたします。御台さまはただお姿がお美しいだけではなくて、お心もまたお美しいのです。それに、お優しいだけでもなく、いささか変わっておわします。恐らく深窓にお育ちあそばされた姫君さまであれば、こうまで公方さまの御心を虜にすることはおできにならなかったでしょう」
そう言った後で、小さく頭を下げた。
「最後の言葉は、どうかお許し下さいませ。私は平素から人を生まれや育ちなどの出自で判断することだけはすまいと心がけております。さりながら、今の申し様は、どうか御台さまへの讃辞だとお受け取りになって頂ければ、嬉しうございます」
矢代は確か豪商の娘で、旗本を仮親として大奥に上がったと聞いている。
生まれや育ちだけで人の価値を決めようとする輩が多い中、そうではないと言いきる女と美空はもっと様々なことを話してみたいと思った。確かに、矢代であれば、智島と並んで、美空の良き片腕、有能な補佐役となってくれるだろう。
「矢代、そなたほどの人材をみすみす潰してしまうのは惜しい。どうか、真のことを話して―」
言いかけた美空に、矢代は笑った。
「先ほどから何度も申し上げております。私が犯した罪はすべて真であると。もっとも、私は、それを罪だとはいささかも思うてはおりませぬが、世間は到底認めてはくれませんでしょう。ですから、たとえ他人がそれ罪と呼ぼうと何と呼ぼうと、私は一向に構いはしませぬ。罪と呼びたい者は呼べば良いし、蔑みたい者は蔑めば良いまでのこと」
「では、そなた、よもや―」
美空の唇が戦慄いた。
「わざわざ尊い御身でここまでお運び下さった御台さま、それに智島さまには心より感謝申し上げますが、残念ながら、私は御台さまのご期待に添うことはできそうにございませぬ」
「でも、私、今日やっと得心がいったような気がいたします。御台さまはただお姿がお美しいだけではなくて、お心もまたお美しいのです。それに、お優しいだけでもなく、いささか変わっておわします。恐らく深窓にお育ちあそばされた姫君さまであれば、こうまで公方さまの御心を虜にすることはおできにならなかったでしょう」
そう言った後で、小さく頭を下げた。
「最後の言葉は、どうかお許し下さいませ。私は平素から人を生まれや育ちなどの出自で判断することだけはすまいと心がけております。さりながら、今の申し様は、どうか御台さまへの讃辞だとお受け取りになって頂ければ、嬉しうございます」
矢代は確か豪商の娘で、旗本を仮親として大奥に上がったと聞いている。
生まれや育ちだけで人の価値を決めようとする輩が多い中、そうではないと言いきる女と美空はもっと様々なことを話してみたいと思った。確かに、矢代であれば、智島と並んで、美空の良き片腕、有能な補佐役となってくれるだろう。
「矢代、そなたほどの人材をみすみす潰してしまうのは惜しい。どうか、真のことを話して―」
言いかけた美空に、矢代は笑った。
「先ほどから何度も申し上げております。私が犯した罪はすべて真であると。もっとも、私は、それを罪だとはいささかも思うてはおりませぬが、世間は到底認めてはくれませんでしょう。ですから、たとえ他人がそれ罪と呼ぼうと何と呼ぼうと、私は一向に構いはしませぬ。罪と呼びたい者は呼べば良いし、蔑みたい者は蔑めば良いまでのこと」
「では、そなた、よもや―」
美空の唇が戦慄いた。
「わざわざ尊い御身でここまでお運び下さった御台さま、それに智島さまには心より感謝申し上げますが、残念ながら、私は御台さまのご期待に添うことはできそうにございませぬ」
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