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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第2章 其の弐

 そのふざけたような態度にも美空は腹が立ってならなかった。
「良い雰囲気になっていたのは、あなたの方だけでしょう。孝太郎さんは、いつもそんな風に女の人にちょっかいを出してるの?」
 売り言葉に買い言葉だった。尖った言葉を投げつけられた孝太郎がムッとしたような表情になる。
「今、何て言った? もう一度言ってみろよ」
 初めて聞く低い声に、美空はやや気圧されながらも大声で言い返す。
「何度でも言うわよ、孝太郎さんは女と見れば、いつもこんな風に簡単に口説き文句を口にするの?」
「どういう意味だよ? それ」
 孝太郎の整った顔が固くなっている。心なしか蒼褪めているようにさえ見えた。
「お前の口から、そんな科白を聞くなんて思ってもみなかった」
 吐き捨てるような口調に、美空は哀しくなった。
「それじゃあ訊くけど、孝太郎さんは、私に一体あなたの何を信じろっていうの?」
「俺の何を信じる―?」
 孝太郎は思いもかけぬことを言われたと言いたげな顔で、一瞬、虚を突かれたようだった。
 ややあって発せられた声はそれまで以上に固いものだった。
「お前は俺のことを信じられないのか?」
 わずかな逡巡の末、美空は小さな声で応えた。
「正直言って、この頃、判らなくなってるの。私には皆目見当もつかないわ。孝太郎さんが何を考え、私たちのことをどんな風に受け止めているのかも」
 孝太郎は、しばらく何事か思案に耽っているようであった。
 気まずい沈黙が落ちる。
 二人で一緒にいる時、いつも喋っているわけではない。ただ黙って周囲の景色を眺めたり、ぼんやりと刻を過ごしているときでも孝太郎となら居心地良く過ごせていたはずなのに。
―もう自分たちは駄目なのかもしれない。
 そんな想いが湧き上がり、美空は溢れてきた涙に懸命に耐えた。
 その沈黙は突如として、孝太郎によって破られる。

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