
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第15章 第四話・其の四
爽やかな風が水面を吹き渡る。
その度に、水面にひろがった光の網がゆらゆらと揺れる。
水無月の庭は眩しいほどに青々としている。池に張り出した廊下の一部が釣殿となり、その場所から見る眺めはまた格別であった。大奥の庭の中でも美空がとりわけ好きな場所の一つである。
また、風が吹いた。ここは水辺に近いせいか、真夏でも風の通り道となって、比較的涼しい。美空は腕に抱いた赤児に風邪でも引かせては大変と、慌てて、おくるみで赤児をくるみ直す。
案の定、クシュンと小さなくしゃみが聞こえた。
もし、こんな場面を家俊に見られたら、すぐに〝ちい姫に風邪を引かせてしまうではないか〟と怒られてしまうに違いない。元々子煩悩な家俊であったけれど、やはり結婚五年目にして恵まれた初めての娘は特別なのか、その溺愛ぶりもいささか呆れるほどだ。
先刻のくしゃみで凜姫が起きたのかと思ったのだが、そっと覗き込んでみると、生後五ヵ月になったばかりの小さな姫は、まだすやすやと安らかな寝息を立てていた。
池の中ほどに小さな築山があり、形良い枝ぶりを見せる松がいかにも若葉の季節らしく初夏の光を弾いている。
視線をゆるりと動かせば、眼下には浅瀬に植わった菖蒲が見えた。
濃紫(こむらさき)と純白、ふた
色の花の対比の妙が見事な調和を醸し出している。初夏の風が駆け抜けると、ふた色の花もまたかすかにそよぐ。眺めているだけで、心が洗われるような、心の底に淀んだものがすべて流されてゆくような心地だった。
視線を再び戻すと、池の水面が弾いた陽差しが釣殿に揺らめく光を作っている。
その度に、水面にひろがった光の網がゆらゆらと揺れる。
水無月の庭は眩しいほどに青々としている。池に張り出した廊下の一部が釣殿となり、その場所から見る眺めはまた格別であった。大奥の庭の中でも美空がとりわけ好きな場所の一つである。
また、風が吹いた。ここは水辺に近いせいか、真夏でも風の通り道となって、比較的涼しい。美空は腕に抱いた赤児に風邪でも引かせては大変と、慌てて、おくるみで赤児をくるみ直す。
案の定、クシュンと小さなくしゃみが聞こえた。
もし、こんな場面を家俊に見られたら、すぐに〝ちい姫に風邪を引かせてしまうではないか〟と怒られてしまうに違いない。元々子煩悩な家俊であったけれど、やはり結婚五年目にして恵まれた初めての娘は特別なのか、その溺愛ぶりもいささか呆れるほどだ。
先刻のくしゃみで凜姫が起きたのかと思ったのだが、そっと覗き込んでみると、生後五ヵ月になったばかりの小さな姫は、まだすやすやと安らかな寝息を立てていた。
池の中ほどに小さな築山があり、形良い枝ぶりを見せる松がいかにも若葉の季節らしく初夏の光を弾いている。
視線をゆるりと動かせば、眼下には浅瀬に植わった菖蒲が見えた。
濃紫(こむらさき)と純白、ふた
色の花の対比の妙が見事な調和を醸し出している。初夏の風が駆け抜けると、ふた色の花もまたかすかにそよぐ。眺めているだけで、心が洗われるような、心の底に淀んだものがすべて流されてゆくような心地だった。
視線を再び戻すと、池の水面が弾いた陽差しが釣殿に揺らめく光を作っている。
