
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第15章 第四話・其の四
と、家俊が笑いながら首を振った。
「いや、そなたはたいした女よな。あの堀田筑前に一泡吹かせてやったそうではないか」
「智島にございますね。全っく、あのお喋り」
大方、智島が家俊に話したに違いない。
美空が家俊に要らざる心配をかけまいとして大奥内の出来事についても黙っていることが多いため、家俊はこの頃、智島に美空の動向をそれとなく報告させているらしい。
もっとも、忠実な智島のことゆえ、美空が本当に内緒にしておいて欲しいと望むことまで、ぺらぺらと喋ったりはしないだろうが。
堀田との対面は、話しても差しつかえないと判断したのか。
美空は家俊を軽く睨んだ。
だが、家俊は面白そうに言う。
「あの何があっても落ち着き払った堀田が冷や汗をかいていたそうな。いや、実に愉快だ。俺も是非、その場で見てみたかったものよ」
「そのようにお笑いにならないで下さりませ。私は私で、あのときはどうなることかと冷や冷やしていたのでございますから」
美空が拗ねたような口ぶりで言うと、家俊はますます愉快だと言いたげに笑う。
「さて、それは真かな。俺の聞いた話では、そなたは実に堂々と筑前に相対し、その話しぶりも御台所としての貫禄十分、実に堂に入ったものであったということだったぞ、何しろ、あの筑前がたじたじとなり、這々の体で尻尾を巻いて逃げ出したというではないか。俺は筑前が嫌いではない。政治的な手腕もあるし、あれなりに幕府の未来について考えてもいることは心得ているつもりだ。が、あの何を考えておるか判らぬような取り澄ました顔は苦手だ。あれが慌てふためいていたという様を是非この眼で見てみたかった、うん、惜しいことをしたものだ」
「もう、知りませぬ!」
滔々と喋り続ける家俊に、美空は背を向ける。
美空の声に、腕の中の凜姫が眼を覚ましたようだ。赤児の泣き声が賑やかに響き渡った。
「おお、これはちい姫を起こしてしもうたか」
家俊は肩を大仰にすくめ、美空から凜姫を抱き取った。
「いや、そなたはたいした女よな。あの堀田筑前に一泡吹かせてやったそうではないか」
「智島にございますね。全っく、あのお喋り」
大方、智島が家俊に話したに違いない。
美空が家俊に要らざる心配をかけまいとして大奥内の出来事についても黙っていることが多いため、家俊はこの頃、智島に美空の動向をそれとなく報告させているらしい。
もっとも、忠実な智島のことゆえ、美空が本当に内緒にしておいて欲しいと望むことまで、ぺらぺらと喋ったりはしないだろうが。
堀田との対面は、話しても差しつかえないと判断したのか。
美空は家俊を軽く睨んだ。
だが、家俊は面白そうに言う。
「あの何があっても落ち着き払った堀田が冷や汗をかいていたそうな。いや、実に愉快だ。俺も是非、その場で見てみたかったものよ」
「そのようにお笑いにならないで下さりませ。私は私で、あのときはどうなることかと冷や冷やしていたのでございますから」
美空が拗ねたような口ぶりで言うと、家俊はますます愉快だと言いたげに笑う。
「さて、それは真かな。俺の聞いた話では、そなたは実に堂々と筑前に相対し、その話しぶりも御台所としての貫禄十分、実に堂に入ったものであったということだったぞ、何しろ、あの筑前がたじたじとなり、這々の体で尻尾を巻いて逃げ出したというではないか。俺は筑前が嫌いではない。政治的な手腕もあるし、あれなりに幕府の未来について考えてもいることは心得ているつもりだ。が、あの何を考えておるか判らぬような取り澄ました顔は苦手だ。あれが慌てふためいていたという様を是非この眼で見てみたかった、うん、惜しいことをしたものだ」
「もう、知りませぬ!」
滔々と喋り続ける家俊に、美空は背を向ける。
美空の声に、腕の中の凜姫が眼を覚ましたようだ。赤児の泣き声が賑やかに響き渡った。
「おお、これはちい姫を起こしてしもうたか」
家俊は肩を大仰にすくめ、美空から凜姫を抱き取った。
