
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第15章 第四話・其の四
「ほれほれ、泣くな、泣くな。ととさまじゃぞ、ととさまじゃぞ」
家俊が抱いてあやしてやると、泣き声は呆気ないほどすぐに止んだ。
「やはり、姫はととさまが好きなのだな」
と、満面の笑みで、まだ言葉も喋らぬ赤児に真剣に話しかけている。
凜姫の泣き声が止むと、途端に静寂がその場を包み込むんだ。
時折、水面で鯉が跳ねる音がやけに耳に付く。
その静寂に美空の消え入りそうな声が響く。
「でも、私は結局、矢代を救うことはできませんでした」
花のような、晴れやかでありながらも、どこか儚げに見えた矢代の微笑が心に灼きついて離れない。
そう、あれは、まさしく散り際の花に似ていた。己れの生を精一杯生命の限り生き、潔く散っていこうとするその姿は、晴れやかでありながらも、哀しい。
矢代の死が江戸に伝えられたのは、つい数日前のことである。
囚われの身となり、目付の詮議を受けた矢代の身柄は翌日にははや大奥から引き出され、大伝馬町の牢へと入れられた。処分の内容は〝長年の大奥にての忠勤により死一等を免じ、流罪〟というものであり、更にその半月後には信州の高遠へと護送されることになった。捕縛された当日にはもう処分が決まっていたにも拘わらず、それほど長く牢に入っていたのは、身柄の預かり先を探していたためであった。
家俊が抱いてあやしてやると、泣き声は呆気ないほどすぐに止んだ。
「やはり、姫はととさまが好きなのだな」
と、満面の笑みで、まだ言葉も喋らぬ赤児に真剣に話しかけている。
凜姫の泣き声が止むと、途端に静寂がその場を包み込むんだ。
時折、水面で鯉が跳ねる音がやけに耳に付く。
その静寂に美空の消え入りそうな声が響く。
「でも、私は結局、矢代を救うことはできませんでした」
花のような、晴れやかでありながらも、どこか儚げに見えた矢代の微笑が心に灼きついて離れない。
そう、あれは、まさしく散り際の花に似ていた。己れの生を精一杯生命の限り生き、潔く散っていこうとするその姿は、晴れやかでありながらも、哀しい。
矢代の死が江戸に伝えられたのは、つい数日前のことである。
囚われの身となり、目付の詮議を受けた矢代の身柄は翌日にははや大奥から引き出され、大伝馬町の牢へと入れられた。処分の内容は〝長年の大奥にての忠勤により死一等を免じ、流罪〟というものであり、更にその半月後には信州の高遠へと護送されることになった。捕縛された当日にはもう処分が決まっていたにも拘わらず、それほど長く牢に入っていたのは、身柄の預かり先を探していたためであった。
