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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第2章 其の弐

 美空は淡く微笑む。
「良いのよ、無理をしなくても。私がこんなことを言ったから、仕方なく結婚しようなんて言い出したんでしょう。孝太郎さん、私はあなたを本当に好きなの。だから、結婚を迫られたと思われて、あなたに求婚して貰っても少しも嬉しくはないし、第一そんな中途半端な気持ちで夫婦(めおと)になっても、すぐに駄目になってしまうわ」
 言い終えた瞬間、孝太郎が両の拳をギュッと握りしめたのを、美空は迂闊にも気付かなかった。
「中途半端な気持ちなんかじゃねえッ! 俺だって、男だ。良い加減な気持ちで一生連れ添う女房を決めたりはしねえよ。お前に俺の気持ちの何が判るっていうんだよ? 俺はたとえ誰が何と言おうが、お前に惚れてる。お前以外の女なんか要らねえ」
 半ば怒鳴るように言い、孝太郎は烈しいまなざしを美空に向ける。
 その形良き眼(まなこ)の奥で蒼白い焔が燃えている。
 孝太郎のほとばしるような心情の吐露に、美空は愕くばかりである。
 孝太郎は、しばらくの間、己れの中で荒れ狂う感情と闘っているようであった。何かを言いかけ―更に気を静めるかのように眼を瞑り、漸く口を開く。
「ここでひと月前に再会した日、お前が俺に何を言ったか、憶えているか?」
 唐突に予期せぬ話題をふられ、美空は戸惑いながら首を振る。
 孝太郎はそんな美空を感情の読み取れぬ眼で見つめ、ふっと笑う。
「俺は初め、お前のおとっつぁんやおっかさんが既に亡くなっちまってるのを知らなかった。知らずに親御さんがお前の帰りを待ってるだろうと言った俺に、お前はこう言ったんだ」
―良いのよ、おとっつぁんが亡くなったのは、もう四年も前のことだし、おっかさんの顔に至ってはろくすっぽ憶えちゃいないんだもの。
 あの時、美空の二親がこの世にはいないのを知らずに両親のことを口にした孝太郎が心ない科白を言ってしまったと謝罪した時、美空は明るく笑って、そう応えた。
 美空の脳裡に、あの日の孝太郎とのやりとりが甦る。

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