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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第2章 其の弐

 けれど、美空には和歌なんて詠めない。だから、同じ歌を返そうと思ったのだ。
「私は、お返しの歌なんて到底詠めないから、孝太郎さんが私にくれた歌をそっくりそのままお返しします。私も同じ気持ちよ、孝太郎さん」
「そうか」
 孝太郎が嬉しげな顔で頷く。
 そっと引き寄せられ、美空は男の広い胸にすっぽりと抱き込まれる。
「私は本当に何も知らないわ。あなたは私の知らない色々なことを知ってるようだけれど、本当にこんな私で良いの?」
 逞しい胸に頬を押しつけて訊ねると、孝太郎は笑った。
「この歌を教えたときにも言っただろう? 知らなければ、学べば良い。これからは、俺が教えてやる。それに美空、何度言わせれば良い? 俺がお前を必要としてるんだ。今の、そのままのお前に俺は惚れたんだよ」
 これ以上の言葉があったろうか。大粒の涙が溢れ、すべらかな頬を流れ落ちる。
 その透明な雫をそっと指でぬぐってやりながら、孝太郎が優しい眼で美空を見下ろしていた。
「美空は相変わらず、泣き上戸だな。怒ったかと思えば、笑ったり泣いたりと本当に忙しい奴だ。だが、そんな風に表情がくるくると変わるところがまた、可愛い」
 けなしているのか、のろけているのか判らない科白に、美空の白い頬に朱が散る。
「それに、ほら、すぐ赤くなる恥ずかしがり屋のところもな」
 チョンと人差し指で額をつつかれ、美空は子どものように頬を膨らませる。
「おっ、今度はガキみたいに拗ねてやがる」
 揶揄するように言われ、
「もうっ、知らない」
 と美空は両手で孝太郎を突き飛ばそうとする。
 だが、逞しい男の身体は微動だにしなかった。美空の華奢な身体に回された男の両腕に力がこもり、美空はいっそう強く抱きしめられる。顎に手をかけて持ち上げられた美空の顔に孝太郎の端整な顔が近付いてきたかと思うと、二人の唇はごく自然に重なった。
 最初は軽く触れ合うだけだった口づけが次第に深くなってゆく。美空は眼を閉じて、男の熱を帯びた―それでいて、しんと冷えた唇を受け止めた。
 さらさらとした粒子の細やかな雪が二人の上に降りかかる。降り始めた雪は止む風もなく、次第に烈しさを増してゆく。

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