
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第3章 其の参
薄い夜具にひっそりと横たわった美空の顔色は蝋のように白く、血の気がまるで感じられない。かすかな息遣いがなければ、それこそ本当に死んでいるのではと思ってしまうほどだ。
「それで、美空は―、美空の容体はどうなんです?」
倒れた美空を介抱して貰ったことも忘れ、孝太郎は噛みつかんばかりに訊ねた。そのなにふり構わぬ形相と切羽詰まった様子に、流石のお民もややたじろいだようで、肩をすくめて見せる。
「あれまァ、そんなに美空ちゃんを大事だと思うのなら、何でこんなになっちまうまで放っておいたんだい」
「―」
お民の言うとおりだ。美空の体調の悪さに気付いていながら、医者にも連れてゆかず、放っておいたのだ。美空が倒れてしまったのも孝太郎のせいだと言われても仕方ない。
返事をせぬお民に、孝太郎の胸が波立つ。
まさか、と、禍々しい予感が駆け抜けた。
「おいっ、返事をしてくれよ。お民さん、本当のところはどうなんだ? 美空は、美空は死んじまうのかッ?」
吠えるように言った孝太郎をまじまじと見つめ、お民がプッと吹き出した。
「確かに、あたしはのんびり水なんぞ呑んでる場合じゃないだろうとは言ったが、何もそこまで血相変えることもないだろうに。落ち着きなよ、孝太郎さん。そんな顔してちゃア、折角の男前が台なしだよ。この長屋にゃア、あんたのきれいな顔を拝むのを愉しみにしてる女房連中が多いっていうのに」
「そんなことは、どうでも良いッ。お民さん、美空の奴―」
孝太郎が怒鳴るように言うと、お民は大仰に天を仰ぐ仕草をしてみせた。
「大丈夫だよ、ずっと殆ど食べてなかったから、腹が空きすぎちまって、いっとき眼を回しただけだってさ。ちゃんと玄庵先生に来て頂いて診て貰ったからね、安心しな」
そこでお民が意味ありげな顔でニッと笑う。
「それよりも、孝太郎さん。あんたも今年中にはもう、てて親になるんだってね。ま、おめでただって判って何よりじゃないか。せいぜい、美空ちゃんを労ってやっておくれね」
ポンと肩を叩かれた孝太郎は茫然とその場に立ち尽くす。
―今年中にはもう、てて親になるんだってね。ま、おめでただって判って何よりじゃないか。
お民の言葉が耳奥でこだまする。
「それで、美空は―、美空の容体はどうなんです?」
倒れた美空を介抱して貰ったことも忘れ、孝太郎は噛みつかんばかりに訊ねた。そのなにふり構わぬ形相と切羽詰まった様子に、流石のお民もややたじろいだようで、肩をすくめて見せる。
「あれまァ、そんなに美空ちゃんを大事だと思うのなら、何でこんなになっちまうまで放っておいたんだい」
「―」
お民の言うとおりだ。美空の体調の悪さに気付いていながら、医者にも連れてゆかず、放っておいたのだ。美空が倒れてしまったのも孝太郎のせいだと言われても仕方ない。
返事をせぬお民に、孝太郎の胸が波立つ。
まさか、と、禍々しい予感が駆け抜けた。
「おいっ、返事をしてくれよ。お民さん、本当のところはどうなんだ? 美空は、美空は死んじまうのかッ?」
吠えるように言った孝太郎をまじまじと見つめ、お民がプッと吹き出した。
「確かに、あたしはのんびり水なんぞ呑んでる場合じゃないだろうとは言ったが、何もそこまで血相変えることもないだろうに。落ち着きなよ、孝太郎さん。そんな顔してちゃア、折角の男前が台なしだよ。この長屋にゃア、あんたのきれいな顔を拝むのを愉しみにしてる女房連中が多いっていうのに」
「そんなことは、どうでも良いッ。お民さん、美空の奴―」
孝太郎が怒鳴るように言うと、お民は大仰に天を仰ぐ仕草をしてみせた。
「大丈夫だよ、ずっと殆ど食べてなかったから、腹が空きすぎちまって、いっとき眼を回しただけだってさ。ちゃんと玄庵先生に来て頂いて診て貰ったからね、安心しな」
そこでお民が意味ありげな顔でニッと笑う。
「それよりも、孝太郎さん。あんたも今年中にはもう、てて親になるんだってね。ま、おめでただって判って何よりじゃないか。せいぜい、美空ちゃんを労ってやっておくれね」
ポンと肩を叩かれた孝太郎は茫然とその場に立ち尽くす。
―今年中にはもう、てて親になるんだってね。ま、おめでただって判って何よりじゃないか。
お民の言葉が耳奥でこだまする。
