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激愛~たとえ実らない恋だとしても~

第3章 其の参

「どうして、そんな風に考えるんだ」
 美空は、これ以上、自分の言葉が良人を怒らせることのないように祈りながら言った。
「あなたが身ごもったことを歓んでくれると思わなかったの」
 万事休す、これで孝太郎がどう思うかは判らない。もしかしたら、余計に孝太郎の心を逆なでしてしまったかもしれない。
 でも、どうせ、いずれは話し合わねばならないことだ。腹の子は日毎に育ち、美空の胎内で新しい生命は生まれ出(い)でるその瞬間(とき)を待ち侘びているのだ。
 折角授かった赤児を流すなんて美空には考えられないし、もし孝太郎がこの子を邪魔者だというのなら、これ以上孝太郎と一緒には暮らせない。
 たとえ惚れた男と別れることになっても、美空は新しい生命を―我が子を守りたい。
 我が子。そのふいに浮かんだ耳に馴染まぬ言葉に美空はハッとし、今更ながらに我が身が母となったことを自覚した。
 まだ実感することすらない、自分の中で健やかに育ちゆく生命の重さをも―。
「孝太郎さん、私は―」
 言いかけた美空の唇に、孝太郎の指がそっと押し当てられる。
「おい、お前はどうもせっかちすぎる。また、俺と別れて一人で子どもを生んで育てようなんて考えるんだろう? 美空、お前はいつもそうやって一人で勝手に俺の気持ちのことまで考えて先走りして、一人で何もかも抱え込んじまう。その挙げ句に、一人で結論を出すんだ。最初から最後まで、取り残されてる俺の身にもなってみろよ」
 美空は大きく眼を見開く。
 もしかして、孝太郎は美空の懐妊を疎ましいものだとは思ってはいない―?
 唐突に湧き上がってきたかすかな希望に胸が震える。
 そんな美空を孝太郎は愛おしげに見つめた。
 何故だろう、所帯を持って一つ屋根の下で暮らし始めて三月(みつき)にもなるというのに、この男(ひと)にこうして見つめられただけで、いまだに心がざわめく。

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