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異種間恋愛

第2章 出会い



ーーシュッ


 私の叫び声と同時に空気を切り裂くように大きな『なにか』が私たちに勢いよくぶつかって、ストラスの身体を投げ飛ばした。
「ひっ」
 恐ろしさで思わず息をするのを忘れてしまう。
 地面に投げ出されたストラスの手からナイフはなくなっており、衝撃で意識を失っているようにぐったりとして動かない様子だ。
 そして、彼に突進した『なにか』の正体は金色の獣であった。

「俺の森を穢すことは許さん」

 吠えるような低く遠くまでよく響く声が地面や木々をも揺らした。
 その獣はゆっくりとした足取りでストラスの方へ向かう。
 見たこともない美しい毛並みの足が優雅に動く度、私は思わず目を奪われ金縛りにあったように動けなくなっていた。
「卑しい人間の血を俺の森で流すなど……」
 見るとストラスの首筋を伝った血は地面にしみ込んでいくように零れおちている。
 獣がストラスの前まで行くと前足を大きくあげた。
「やめてっ」
 私は思い出したように走り出し、ストラスと獣の間に両手を広げて立った。
 獣は少し驚いたように鼻をぴくりと動かすと前足を静かに下げた。
「なんだ、人間がまだいたのか。何の用だ」
「なにする気?ストラを早く手当てしなきゃ……血が出てるっ」
「はっ、お前の様子を見る限りこいつが自分で勝手にやったことだろう。死にたいのなら死なせてやれ」
 獣は大きく鋭い目でストラスを見下ろすと脅すように遠吠えをひとつした。
「嫌よっ!」
「どけ」
「私が嫌なのっ!森は汚さない。だから、もうなにもしないで頂戴」
 大きな獣の顔をじっと睨みつけると私の瞳から抑えきれなくなった涙が溢れ出す。
「……」
 獣はしばらく私の顔を見たあと、どすんどすんと足をならして私たちから離れて行った。

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