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異種間恋愛

第3章 不器用な優しさ

「おい」
 前を歩くレオが突然こちらを振り向いた。
「なに?」
「いつまでついてくるつもりだ」
 大きな身体に似合う大きくお腹に響く声は苛立ちを隠そうともしていない。
 私はふうっと息を零す。
「私、ここで暮らしたいの」
 レオは長いしっぽで自分のお尻をぴしりと叩いて動きを止めた。
 驚いているのかもしれないし、呆れているのかもしれない……意味のわからない奴だと思われていることに違いはないけれど、こんなに暗くなってしまっては村に戻れないのだから、下手に森を出ていこうとするほうが危険だと私は判断した。
 それに、森にはいった時から感じていたここの雰囲気は私にとって落ち着くものであったから本能的にここで暮らそうと考えていたのかもしれない。
「お前は人間だ。帰るところがあるだろう」
「……ないわ。もう村には帰らない。お願い、この森は絶対に汚さないし大切にするから」
 レオは私の考えを見透かそうとするように体中を鋭い目つきで観察してからまた歩きだした。
「こっちだ」
 置いて行ってしまうのかと思い、途方に暮れレオの歩く動きに合わせて揺れるたてがみをぼんやり見つめているとレオが横目で私を振り返り短く言った。
 短い、とても短い言葉だったのに私はこれまでにないくらい安堵と幸せを感じた。
「うんっ」
 レオの後ろに追いつくように小さく駆けていく。
 レオの斜め後ろを歩くと、私の足にレオが速さを合わせてくれていることがよくわかった。
 前足も後ろ足もゆっくりと動き、たまに立ち止まり耳をぴくぴくと動かしているのは私が置いて行かれていないか心配してのことなのだろう。
 少し歩くと、レオが立ち止まった。
 そこは大きな木が一本立っていて、その周りにはなにもない。ただ地面と草があるだけの場所だった。
「ここが寝室なのね」
 私はライオンが日陰を好むことを思い出しながらそう切り出した。
「ここは陽が昇るのが早いから、木の下で寝ないと日差しに起こされる」
「ふーん」

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