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異種間恋愛

第5章 失われた記憶

「くっ」
「無理に今思い出そうとするな。落ち着け」
 父さんが眉間に皺を寄せて僕の額を撫でた。汚らわしい手で触られるのがもう我慢ならない。今まで我慢してたけれど、今はそんな余裕もない。
 父さんの手を無視してリトルに縋りつく。
「頼む。リトル」
「……。申し訳ないですが、これから精密な検査をしますので皆さん一度部屋を出て行って下さい」
 医師の表情に戻ったリトルに逆らうことはできず鬱陶しい視線を絡めてくる女たちも父さんも渋々といった様子で部屋から出て行った。
 僕は頭が真っ白でなにも考えられない。でも。リアはどこに?早く見つけ出さないと……とただ焦る。
「本当になにも覚えていないのか?」
「ああ」
「全身打撲もあったからその時に頭も打ちつけたんだろう。軽い記憶喪失になってんだ」
「くっそ」
 ベッドに拳を深く打ちつける。それだけでは気が済まず拳を強く握りしめて自分の頭を殴ろうとした。
「やめろ」
 静かにリトルがその手を止めた。小さいくせに力だけはある。
「これ以上頭に衝撃を与えると思い出せなくなるかもしれないぞ」
「……っ」
「リアちゃんのことは町の皆もできる限り捜してる。それに……」
 リトルの言葉に驚愕しながら耳を傾ける。
 リアが僕を連れ帰った時に、リアも血まみれだったこと。
 僕が運ばれていくのを呆然と眺めていたこと。
 そして、その姿を最後にリアが消えたこと。
「どうして……」
「それと、お前の首元の傷は普通の切り傷じゃない。刃物を押し当てられたような傷なんだ」
 そっと首元に巻かれた包帯に手をやる。
 刃物と聞き、急いで服の中を漁る。
「僕の元の服にいつもの小刀はなかったか?」
 リトルが赤い髪を揺らしながら首を振った。
「……うっ」
 頭を両手で抱えて呻くとリトルの手が伸びてきた。
「今、休むことが一番の近道だ。俺くらいは信用しろ」
「……悪い。ありがとう」
 リトルの手が瞼に乗ると自然と意識が薄れていく。
「リアあいた、い」

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