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異種間恋愛

第5章 失われた記憶

「ストラス様?」
 誰だ……近くで聞えるはっきりとした声はリアのものではない。背筋が凍るような猫撫で声だ。
 それに手を伸ばして触れたその肌はリアのように瑞々しくなく肌触りが良くない。
「ああ、ストラス様が目を覚ましたわっ。私です、ビビアンです」
 瞼をゆっくりと開けると部屋にいることがわかった。しばらく眩しさで周りがよく見えなかったがこちらを覗き込んでいる女たちの顔がざっと見えて急にがっかりした。
「こ、こは?」
「ここはリトル医院ですわ。ストラス様が森で怪我をしたとかで運ばれてきたんですのよ。もう5日間も眠ったままで皆すごく心配してたんです」
「でも、目を覚まされて良かったわ」
「本当に……」
 涙ぐみだす女たちが心底鬱陶しい。心配されるのは有り難いが、魂胆が見えている。この機に僕に近づこうとしているのだろう。
「ストラスっ」
「父さん」
 向こうから誰かが呼んだのか父さんが出てきた。
「よかった……いま母さんも来るからな。どこか痛む所はないか?」
「うん、それより……リアは?」
 急に水を打ったように部屋の中が静かになった。
 リアはいつでも僕の傍にいるはずなのに、今いないのは何故?
 早く会いたい……夢の中でも会話をできなかった。今すぐリアの絹のような肌を触り、赤く染まる頬を眺めて、丸い瞳を見つめたい。
 父さんが重々しく口を開いた。嫌な予感がする。
「それが……いなくなったんだ」

「え?」

「ストラス、よかったよ。どこか痛まないか?」
 リトルが部屋に入ってくると首にかけていた聴診器を手で弄びながら僕の服を巻くしあげようとした。
「リトル、リアは?」
 その手を振り払って幼なじみのリトルを見つめる。
 リトルが一瞬息を止めたのが分かった。
「そうか。お前も分からないんだな」
「どうゆうことだ?」
「リアが怪我をしているお前をどうやってか、どこからかは分からないけど連れて帰ってきたんだ。森の入口にいたから、たぶん……ふたりは森に入ってたと思うんだけど」
「森……に」
 ぼんやりとする頭で思い出そうとしてもなにも出てこない。

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