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異種間恋愛

第8章 動き出す捜索

「ストラス様、わたくしが焼いたクグロフ食べて下さらない?」
 ブロンドの長い髪が自慢なのか、手で靡かせながらビビアンが病室に入ってきた。片手には香ばしい色に甘い良い香りの小さなお菓子が入った袋を持っていた。
 相変わらずの猫撫で声で語尾が甘ったるいのが気にくわない。自分の顔に自信があるようで、唇を尖がらせて僕の顔を覗いた。
「ビビアン、悪いけれど食欲がないんだ」
 食欲がないのは本当だ。目が覚めてから数日経ったがリアのことを考えると喉を通らなくなる。
「まあ……。まだお身体が痛みますの?」
「うん。そうなんだ。だから、ひとりにしてくれないか?」
 背の高いビビアンは僕が寝ているベッドの横に膝を立てて座る。居座るつもりなのか、と嫌気が差した。
「リア様のことが心配でいらっしゃるの?」
「……当り前だよ」
「でも、彼女は自分の意志で森に戻っていったんですわよ?」
「森に?」
 誰もリアの行き先を知らないはずじゃなかったのか? どういうことだ。もし本当にリアが森に行ったとすればその目的は? 森には獣と草木しかないのに……なにをしに?
「それは確かなのかな?」
「まあ……」
 ビビアンが自分の口を手で押さえた。何か知っているのだと僕は確信する。眉をひそめてビビアンを睨むように見つめた。
「わ、わたくし……実は見ましたの。ストラス様が運ばれていった後にリア様が森にひとりで入っていくのを」
「君はただ見ていたの?」
「はい」
 短い返事。僕は目の前にいる女に殴りかからないように自制するので精一杯だった。
 ビビアンは僕と同い年で、毎日のように僕に付きまとっていた。リアのことをずっと虐めていたのもこの女。それを咎める度に『もうしませんわ』なんて泣きながら謝るくせにすぐに陰湿な嫌がらせをする。
 放っておけば危ないと分かっていた。けれど、僕はリアの傍を離れることがないと根拠のない自信があったから……。
 それが、こんな結果を生んだのだ。
 リアが危険な森に入ればビビアンにとって目障りな女が消えると考えたのだろう。吐き気がした。
「止めようと思ったんですけれど、速足で森の中へ入っていって、すぐに見えなくなってしまって……」
 どこまでが本当のことなのか分からない。
「それで、諦めて誰にも知らせずに今に至るんだ?」

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