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異種間恋愛

第9章 憧れの都

 おじいさんは掛けていた丸い眼鏡を指で押し上げて咳払いをした。
 フローラさんも何故か周りをきょろきょろと見渡して、他のお客さんたちがこっちを見ていないか確認していた。
「ちょっと、こっちへ来て話そうかな」
 おじいさんは皺だらけの顔に笑顔を浮かべながら私の背中をそっと押した。

「リアちゃん」
「はい」
 紅茶を飲んだ部屋に再度入れられた。
「ここでは……ラーナではそういうことを人前で言ってはいけないのよ」
 さっきまですごく活き活きしていたフローラさんが急に声のトーンを落として顔を曇らせた。
 そういうこと、が何を差すのかよく分からない。
「ラーナは荒れている、とかこの地に関してネガティブなことは言っちゃだめ」
「え、でも……」
 戸惑う私の頬をフローラさんが優しく両手で包んだ。その手はすごく細くて冷たかった。
「結論から言えば、ここは荒れている。それは事実よ。王様があまりに贅沢をするせいで、私たちは色々なものを失いながら、耐えて生きてるの」
「失い……?」
 フローラさんは私の頬から手を離し、切ないほど優しい笑顔を作ってみせた。
 私は息を呑んだ。ここで、何が起きているのか……知らないといけないと確信した。
「リアさん、と言ったかね」
 私は頷いた。
「リアさんは村の学校で歴史や政治について習ったかな?」
 眼鏡の奥から覗く優しい瞳を見ながら首をゆっくりと縦に振った。
「でも、それは……信じてはいけない気がして」
「リアさんはとても頭の良い子じゃね。そうじゃ、国が作った教科書に何の意味がある……嘘と都合の良いことしか書かれていない。今の国王様が毎年100人以上の若者を殺していると書いていたかい?」
「そ、んな……」
「どこから、話せばいいのやら……少々長い話になるけど聞いてくれるかね?」
 私は黙ったまま何度も頷いた。今にも倒れそうなほど頭が痛く、息がつまりそうだ。
 おじいさんは重々しく口を開いた。フローラさんは唇を噛みしめた。

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