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異種間恋愛

第11章 王子と獣

 王子ということはさっき言っていた現国王フェリクスの息子? そんな人に頭を下げるなんて……ここの人たちは本当に耐えているんだ。
「ラドゥ様がいらっしゃったわっ」
「あー、でももうっ! ラドゥ様が一番近くにいるときには頭を下げなきゃいけないなんて。じっくりお顔を拝見したいのに」
 隣にいる女の子たちの会話が聞こえてきて私はぎょっとした。
「ラドゥ様は女の人に人気なのよ。ほら、見た目がすごくいいから。それに、まだ酷いこともしてないしね」
 フローラさんはすごく小さな声で言う。
「馬鹿ねえ、ラドゥ様の美しいお顔を直視なんてしたら石になっちゃうわよ」
「それもそうね。やっぱり遠くから拝見するのが一番かしら」
「ええ」
 よく見れば、道の両脇に跪く若い女性たちは皆頬を赤らめて興奮した様子でひそひそ話をしている。
「こちらにおわすのはアスリアス王国第一皇子ラドゥ・グラフストーム・シャレット様である。控えよ」
 皆が一斉に跪き頭を深く下げた。だんだんと行列が近づいてくる気配を感じる。
 早く通り過ぎてほしい。長い間この態勢をするのは慣れていなくて早くも首の裏側と地面に触れている剥き出しの片膝が痛む。
「おい」
 馬の蹄が目の前で止まった。低くない冷たい声が静かな空気を震わせた。
「そこの女。リスを連れているお前だ」
 心臓が跳ねた。私のことでしかない。
「はい」
 頭を下げたまま返事をする。
「面を上げよ」
 隣りで肩を震わせるフローラさんが息を呑む音が聞こえた。周りはなおもしんと静まり返っている。
 私はゆっくりと顔を上げた。
 真っ白な馬に跨ったその人の姿は眩しくてよく見えなかった。ただ、馬の腹に伸びる脚は長くすらっとした黒いズボンとブーツを履いているのは見えた。
「そのリスはお前のペットか?」
 太陽の位置と王子の顔がかぶって本人の表情は全く見えない。
「いえ」
「ではなんだ」
「……友だちです」
 静かだった空気がさらに張りつめた。王子も口を閉ざしたようでただ耐えられない時間が過ぎる。

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