喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編
第2章 ♣海の女神♣
彼らはけして女が好むような美男でもないし、ましてや優雅などという形容とはおよそかけ離れている。しかし、真摯に生きる男の表情は実に生き生きとして魅力的だ。それはホストを辞めて、掛け持ちのバイトをしていた自分にはけして得られなかったものだ。
既に競りは殆ど終わりに近づいていたらしく、三十分を経ない中に終了した。網元が荷を広げている場所から少し離れて佇み、悠理はなりゆきを見守っていた。
競りが終わり、悠理は網元に近づいた。
「お前の覚悟とやらは所詮、その程度のものか?」
網元は悠理の方を見もせずに、ぶっきらぼうに言い放った。
「済みません。ここのところ眠れなくて、つい寝過ごしてしまいました」
悠理は懸命に頭を下げ続けた。ここは自分が一方的に悪いのだから、謝るしかすべはない。
「言い訳なぞ、くどくど言わんでも良い。お前という人間がどんなヤツかはよく判ったから、さっさと荷物を纏めて出ていけ」
「網元! お願いです、もう一度だけチャンスを下さい」
悠理はその場に正座した。きちんと膝を揃えると、頭がつきそうなほど深々と垂れる。
「止めんか。そんな真似をされても、わしの気持ちは変わらんぞ」
網元は更に分厚い唇をぐっとへの字に曲げた。意思の強そうな、いかにも一徹げな気性が如実に口許に表れている。
「いいえ、止めません。俺、生まれ変わりたいんです。何もかも棄てて、もう一度やり直せるのなら、何でもしようと思ってます。だから! お願いですから、もう一度、チャンスを下さいませんか」
網元を真下から見上げる、悠理は頭を下げ続けた。
短い沈黙があった。網元が口を開きかけ、顎に手を当てた。何事か思案しているように見える。まるで小学生の頃、出来を心配していた算数のテストの返却を待っているような気分だ。
やがて、低い声が静寂(しじま)を破った。
「今日、使った網を全部、綺麗にして干しとけ。普段は他の若い者たちがやる仕事だが、今日はお前が一人でやるんだ。やり方は昨日、見ているはずだから、判るな?」
「判りました。ありがとうございます」
悠理は弾んだ声で言い、深々と頭を下げる。
既に競りは殆ど終わりに近づいていたらしく、三十分を経ない中に終了した。網元が荷を広げている場所から少し離れて佇み、悠理はなりゆきを見守っていた。
競りが終わり、悠理は網元に近づいた。
「お前の覚悟とやらは所詮、その程度のものか?」
網元は悠理の方を見もせずに、ぶっきらぼうに言い放った。
「済みません。ここのところ眠れなくて、つい寝過ごしてしまいました」
悠理は懸命に頭を下げ続けた。ここは自分が一方的に悪いのだから、謝るしかすべはない。
「言い訳なぞ、くどくど言わんでも良い。お前という人間がどんなヤツかはよく判ったから、さっさと荷物を纏めて出ていけ」
「網元! お願いです、もう一度だけチャンスを下さい」
悠理はその場に正座した。きちんと膝を揃えると、頭がつきそうなほど深々と垂れる。
「止めんか。そんな真似をされても、わしの気持ちは変わらんぞ」
網元は更に分厚い唇をぐっとへの字に曲げた。意思の強そうな、いかにも一徹げな気性が如実に口許に表れている。
「いいえ、止めません。俺、生まれ変わりたいんです。何もかも棄てて、もう一度やり直せるのなら、何でもしようと思ってます。だから! お願いですから、もう一度、チャンスを下さいませんか」
網元を真下から見上げる、悠理は頭を下げ続けた。
短い沈黙があった。網元が口を開きかけ、顎に手を当てた。何事か思案しているように見える。まるで小学生の頃、出来を心配していた算数のテストの返却を待っているような気分だ。
やがて、低い声が静寂(しじま)を破った。
「今日、使った網を全部、綺麗にして干しとけ。普段は他の若い者たちがやる仕事だが、今日はお前が一人でやるんだ。やり方は昨日、見ているはずだから、判るな?」
「判りました。ありがとうございます」
悠理は弾んだ声で言い、深々と頭を下げる。