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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第3章 ♣海ほたる舞う夜♣

 コンビニはバス停の手前にあった。バス停の側を通り過ぎる時、悠理は感慨深い想いに囚われた。バスからここに降り立ったのはまだつい三日前のことなのに、もう随分と時間が流れたような気がしてならない。
 この小さな港町は不思議だ。一度も訪れたことがないのに、妙に自分を惹きつけてやまない。その原因はやはり、ひとめ惚れした女性―眞矢歌の存在があるからかと一時は考えたりもしたのだけれど、どうも彼女のせいだけではないようだ。
 初めて訪れる町なのに、もうずっと以前から自分はこの町を知っていたような、自分は来るべくしてここに来たのだという確信のようなものがあった。まあ、単なる思い込みだと言われてしまえば、所詮はそれまでの話だが。
 通りを挟んで斜め向こうのバス停を眺めている中に、バスが走ってきて停まった。数人の小学生たちが賑やかに降りてくる。今日、学校は早く終わったのだろうか。
 まだ一年生らしい子どもたちはそれぞれ、新しいランドセルを背負っている。小さな身体には不似合いなほど大きなランドセルが夏の陽射しにピカピカと輝いていた。
 悠理は眩しげに眼を細めて、微笑ましい光景を見送った。中にはバス停の近くまで親が迎えにきて、母親と手を繋いで帰っていく子もいた。嬉しげに母親を見上げる子どもと、子どもの話にいちいち頷いている母親。
 知らない中に、悠理の眼は濡れていた。
 実里の生んだ子どもは今、生後七ヶ月。もう歯は生えただろうか。お座りは始めただろうか。自分は父親なのに、我が子の側にいて、その目覚ましい成長を見守ることができない。
 彼の代わりに、実里の側にいるのは柊路だった。それを思う時、悠理の胸に烈しい嫉妬の焔が燃え上がる。理不尽な感情だとは十分承知していながら、実里や我が子の側にいる柊路を恨めしく思わずにはいられなかった。

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