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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第3章 ♣海ほたる舞う夜♣

「私ね、これまでに色々考えたわ。十七のときに失った子をちゃんと産んであげていればとか、子宮がなくても、まだ卵巣が残っている今なら、代理出産という形ででも我が子をこの腕に抱けるかしらとか」
 そういえば、少し前、女性タレントが子宮を全摘した後、残った卵巣から卵子を取り出し夫の精子で体外受精を行ったことが報じられた。子宮を失っているため、本人に受精卵は戻せない。そのため、受精卵は海外女性に移され、この度、その代理母が無事、双子を出産するに至ったらしい。
 日本ではまだ法律的に代理母の出産は認められていない。そのため、海外に渡って、外国人の女性に報酬を払って頼むことが多いと聞いている。
「馬鹿みたいでしょ。そこまでやって子どもを作っても、その子は確かに私の子どもだろうけれど、自分でお腹を痛めて生むからこそ我が子であって、他の女(vs)に生んで貰ったのなら、それはもう単に自分の遺伝子を持った他人の子にすぎない。少なくとも、私はそう思っているの。それでも、代理出産という道を選択する人の気持ちも痛いほど判るし、時には、他の女に生んで貰ってでも、子どもを持てる中に持つべきじゃないって考えることもある」
 振り絞るような心情の吐露に、悠理は返すべき言葉を持たなかった。
 こんな場合、安易な慰めを口にしても、何にもならない。かつて早妃とお腹の子を失った直後、親友の柊路が幾ら言葉を尽くしてくれても、それはかえって悠理の苛立ちを煽るだけにすぎなかった。
「ごめんなさい。こんな話をしても、悠理さんが困るだけよね」
 眞矢歌が笑う。その儚げな笑みに、悠理は心をつかれた。
「いや、俺には何となく判るよ」
「それは多分、無理だと思うわ。子どもを失ったことのない人に私の気持ちは―」
 言いかけた眞矢歌を悠理は真正面から見た。
「俺も子どもを亡くしたから」
 え、と、眞矢歌が大きく眼を見開いた。
「俺も眞矢歌さんと同じさ」
「でも、どうして。悠理さんはまだ若いのに」
 悠理は物問いたげな眞矢歌をじいっと見た。

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