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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第4章 ♣永遠の女神♣

 そんな風に考えられるようになった。
 ふと見上げると、暮れなずんでゆく夏の空が視界いっぱいに飛び込んできた。
 夕陽がよく熟れたオレンジのようにひときわ輝きを放ち、空は鮮やかなピンクと紫色で彩られている。
 ふいに潮の香りを乗せた風が悠理の前髪を揺らして通り過ぎていった。風にいざなわれるように振り向いた先に、彼女がいた。
 ウサギの大きなアップリケのついたピンクのエプロンをしている。次々に迎えにきた親に連れられて帰ってゆく子どもたちを見送っている。
「坂崎先生、バイバイ」
「せんせぇー、また、明日ね」
 眞矢歌は最年長の五歳児の担任だと聞いている。
 子どもたちは眞矢歌に満面の笑みを見せて帰ってゆく。眞矢歌もまた優しい笑顔で一人一人の子どもたちに手を振っていた。
 俺には、あんなとびきりの笑顔を見せちゃくれないぞ。
 などと、早くも彼女を独占したがっている自分に気づき、悠理は我ながら呆れた。
 俺の彼女は極上の美人なんだぞ!
 逢う人、逢う人にいちいち紹介して回りたいと思う。これはもう、重症である。
 眞矢歌を見ていると、ひとりでに頬が緩む。悠理は慌てて周囲を見回し、表情を引きしめた。幾らやっとできた彼女だからといって、あまりに締まりのない顔でにやけてばかりいるのも男として情けないではないか!
 子どもたちを見つめる眞矢歌の表情は慈愛に満ちていて、実に良い表情をしている。輝いているとでもいえば良いのだろうか。
 本当に根っからの子ども好きなんだな。
 悠理は少し離れた場所から、眞矢歌を見守りながら思った。その時、彼女の横顔が誰かに似ていることに気づいた。誰なのだろうと記憶を手繰り寄せようとしても、なかなか出てこない。
 と、次の瞬間、彼の記憶の底から浮上してきた一つの光景があった。

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