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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第4章 ♣永遠の女神♣

 そっくりさんなのに、何で〝向井クン〟なのかは判らないが、彼女たちがそう呼びたいのなら、まあ、呼ばせておけば良いと、静かな諦めの境地に至っている。
「向井のお兄ちゃ―ん」
 これも聞き憶えのある声に、悠理は微笑む。
 例のコンビニ前で出逢ったショートアの小学生である。
「妹がここに通ってるんだ」
 切りそろえた短い髪を揺らしながら、少女が飛び跳ねる。
「そうなんだ。お母さんと迎えにきたの?」
「うん。あっ、お母さんが呼んでる。じゃあね」
「気をつけて帰ろよ」
 女の子は少し先で待つ母親の許に急いで駆けてゆく。荷台に三歳ほどの女の子を乗せた母親は自転車を押し、悠理の方を見て軽く頭を下げる。
 悠理もまた頭を下げ、親子三人は横断歩道を渡って帰っていった。
 家族、子ども。心が温まる光景だ。
 しかし、自分は生涯、後悔することはないだろう。たとえ子どもは持てなくても、眞矢歌という、かけがえのない女に、彼だけの女神にめぐり逢えたのだから。
 不思議なことに、眞矢歌という存在を得てから、悠理の心は凪いだ海のように穏やかになった。もう、実里の夫となり、悠理の実の子どもの父となった柊路を恨めしく思うこともない。
 素直に柊路に感謝し、子どもの幸せを祈れるようになった。たとえ遠く離れていても、血の絆は絶てるものではない。これから先、父子と名乗り出ることはなくても、実里の生んだ子どもは悠理のただ一人の我が子なのだ。
 だからこそ、悠理は遠く離れたこの町から、我が子の幸福を祈ろうと思う。この世のどこかに、自分の血を分けた我が子が生きている―、そう思うことが、これからの自分を支えてくれるに違いない。我が子は知らなくても、自分だけは知っている。

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