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喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編

第4章 ♣永遠の女神♣

 八月の終わり、悠理は一度、故郷のM町に帰った。それまで暮らしていたアパートを引き払い、数少ない荷物を処分するためだった。
 その際、大家に挨拶に行き、念のためにと次の落ち着き先として網元の家の住所を告げておいたのだ。だから、本来は悠理の居場所を知るはずのない柊路が知ったに違いない。
 郵便局にも転居届けを出しておいたが、転送されてきたのなら、ここの住所が最初から表書きに記されているのはおかしい。
 悠理はもう一度、写真を見た。赤ん坊の名は理乃というのだろう。誰がつけたのかまでは判らないけれど、紛れもなく悠理の血を分けた娘に、悠理の名の一字が入っていることに悠理は気づいていた。
 実里ではなく、恐らく柊路がつけたのだろうことは容易に想像がつく。ホスト時代から悠理が無二の友とも兄貴とも思った柊路は、義理の娘に実の父親の片諱を与えたのだ。それが、生涯父子の名乗りをできない縁薄い父と娘への、せめてもの心遣いだったのだろう。
 丸々とよく太って、いかにも健康そうだ。柊路は約束どおり、実里と子どもを大切にしてくれている。
 様々な感情が押し寄せてきて、悠理はしばらく写真を握りしめたまま座り込んでいた。
 赤ん坊の写真を見つめる悠理の眼から涙が流れ頬をつたう。
 眞矢歌との結婚式を三日後に控えた、十月初めのある朝の出来事であった―。

                 (了)

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