喪失、そして再生~どこか遠くへ~My Godness完結編
第4章 ♣永遠の女神♣
小さな港町は、背後を小高い山々に囲まれている。季節がうつろい、この町にも秋がめぐってきた。
町を抱くようにそびえる山々が透明な大気にくっきりと立ち上がって見える季節がやってきたのだ。そんなある日の朝、悠理の居候する網元の家に一通の手紙が届いた。
その日の朝、漁に出て競り市場から戻ってきた悠理は、ポストから郵便物の束を取り出した。
数通ある手紙は三通が網元宛のもの、二通が眞矢歌宛て、最後の一通が悠理宛てになっていた。
「俺に手紙なんて来るわけないのにな」
悠理は首をひねりながら、何げなく縦長の白い封筒を裏返す。差出人の名を見た瞬間、彼の端正な顔が強ばった。〝片岡柊路〟と記憶にある几帳面な字が並んでいた。
悠理は家の中に入り、二階の自室に駆け上がった。封を切るのももどかしい。手が震えてなかなか開けられず、何度か失敗して漸く開けることができた。
私信らしいものは何も入っていない。
「畜生、あいつ、ふざけてんのか?」
毒づきながら封筒を逆さにして振っている中に、中から、はらりと何かが落ちてきた。
「―?」
悠理は落ちてきた紙を拾う。それは写真らしかった。裏返しになった写真を表に向けた瞬間、彼は息を呑んだ。
L判の大きさの写真の中では、赤ん坊が笑っていた。色の白い、眼の大きな女の子だ。片隅に〝理乃 生後十ヶ月〟と記してある。
眼許辺りは実里に似ているような気もしたし、自分に似ているような気もした。
「あ―」
悠理は声にならない声を上げ、写真を頬に押し当てた。
せめて、ひとめで良いから我が子の顔を見たい。そう願い続けていた自分の心を、柊路は判っていたとでもいうのだろうか。